2011年に外資系食品メーカーのキャンペーンワードとして使われたのをきっかけに生まれた「腸活」という言葉。その後、徐々に広がり始め2015年ごろには腸活を題した書籍が登場するなど、現在ではすっかり一般的な言葉として定着しました。
今や誰もが知っている腸活ですが、具体的にはどのようなイメージが思い浮かぶでしょうか? 医学用語ではない腸活には実は定義が存在せず、人によってイメージはバラバラ。そこで今回は腸活を3つに分類し、腸の調子を整えるのに役立つと考えられる理由を解説します。
目次
腸の働きを活発にする「腸活」は主に3タイプに分類できる
腸活の意味を改めて整理すると「腸内環境を整えること」「腸の働きを整えること」「腸に入るものを整えること」の3タイプに分類できます。いずれの腸活も腸の働きを助ける活動ですが、そのアプローチが異なります。代表的な腸活の例とともに見ていきましょう。
腸活タイプ①:「腸内環境を整える」

プロバイオティクスとプレバイオティクスの摂取で腸内細菌を助ける腸活を
おなかを下したり、残便感があったりといった便通異常をもたらす一つの要因が腸内環境の悪化です。腸内には約1000種類、個数にして100兆個ほどの細菌が存在するといわれています。人体を構成する細胞数よりもその数は多く、重量にして1〜2kgの腸内細菌が常に腸内にすみ着いているのです。
腸内細菌は主に、人体に好影響を与える善玉菌、悪影響をもたらす悪玉菌、その2種類のうち優勢なほうに追随する日和見菌の3種類に分けられ、これらの腸内細菌のバランス「腸内フローラ(腸内細菌叢)」によって腸内環境のほか、便通や体の状態が変化します。
腸内細菌の活動によって変わる腸の調子を整えるには、腸内での短鎖脂肪酸(酢酸など)の生成を促して善玉菌を優勢にすることがあげられます。そこで用いられる代表的な腸活には次のようなものがあります。
- 善玉菌の一種である乳酸菌・ビフィズス菌をヨーグルトなどの乳製品・発酵食品やサプリメントなどから摂取する「プロバイオティクス」
- 善玉菌の“エサ”となるオリゴ糖や食物繊維を摂取して腸内で働きやすい環境を整える「プレバイオティクス」
腸活タイプ②:「腸の働きを整える」

自律神経のバランスを整えると腸の働きも整う
便通異常は、腸内環境の影響のほか、腸の働きの不調によっても生じます。胃腸の働きは人間の意志では制御できず、主に全身の活動力を高める役割を担う「交感神経」と、その逆の働きをする「副交感神経」から形成される自律神経がつかさどっています。
このうち、腸の働きを活発化させるのは心身をリラックスさせる「副交感神経」です。副交感神経が優位になると腸のぜん動運動が活発になり、消化された食物がスムーズに排出されやすくなります。自律神経のバランスが崩れてしまうと、大腸はのぜん動運動が鈍くなり腸内に便がたまってしまうケースがあるのです。
腸の働きの不調を解消するためには、自律神経を整えることが大切です。自律神経のバランスをサポートして腸の活動を整える腸活には、以下のようなものがあります。
- 体を動かしたときの振動や筋肉の動きで腸の動きを促すために、適度な運動やストレッチ・マッサージを行う
- 睡眠中に便をS状結腸へと送り、起床時に排便できるよう、十分な睡眠をとる
- 理想的な排便習慣をつけるために、朝食をとる
- お風呂にゆっくり入るなどして、過労やストレスの解消を行う
有酸素運動が腸の動きを促進する
また、体を動かして汗をかく運動の習慣をつけることも、体の活動状態と休息状態との切り替えがスムーズになる、つまり自律神経を整える手段のひとつです。
運動する際は、短時間で瞬発的に行う激しい運動よりも、筋肉への負荷が比較的軽く長時間続けられる有酸素運動や、体をねじる動きのある運動のほうが腸を刺激して、自律神経を整えて腸の運動を整えるといわれています。具体的には、ウォーキングやジョギング、エアロビクス、サイクリング、水泳などで、1回30分以上を目標にしてみるといいでしょう。
腸活タイプ③:「腸に入れるものを整える」

バランスのとれた食生活が腸を助ける
腸内の環境、腸の働き、そしてもう一つ腸の調子に影響を与えるのが、毎日腸に入れる「食べ物」です。すなわち食生活の改善も、腸活の1ジャンルと位置付けられます。
食べ物での腸活で心がけるのは「バランス」や「習慣」です。「主食(ごはん、パン、麺)」「副菜(野菜、きのこ、いも、海藻料理)」「主菜(肉、魚、卵、大豆料理)」「牛乳・乳製品」「果物」の5つの区分の食事をバランスよく食べることや、毎日規則正しい回数・時間で食事をとることが大切になります。「体や腸によいものだけを食べる」という極端な食生活では、適切な腸活とはいえません。腸に入れるものを整える腸活として、以下のようなものが挙げられます。
- 食物繊維の多い食品(きのこ、さつまいも、海藻、穀類、大豆製品など)を積極的にとる
- 乳酸菌などを利用して作られる発酵食品(キムチ、漬物、ヨーグルト、チーズ、納豆など)を積極的にとる
- 朝に冷たい水や冷たい牛乳を適度に飲み、胃や大腸を刺激する「直腸・結腸反射」を促す
- 便の量を確保するため、食事量を減らしすぎない
ふだんの食事だけでは不足しがちな食物繊維を十分とろう
日本人に多い便通異常の中で、腸のぜん動運動が低下するタイプの対策の1つとして、食物繊維の十分な摂取があります。
食物繊維とは炭水化物のうちで、人間の消化酵素では消化できないものを指します。消化されずに腸内へと移動した食物繊維は便の量を増やし、腸のぜん動活動を助けてくれます。水に溶けにくい不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維とがあり、不溶性食物繊維は便の量を増やす機能があります。また、不溶性食物繊維・水溶性食物繊維ともに善玉菌のエサとなって腸内環境を整える働きがあります。
食物繊維は日本人に不足しがちな栄養素とされ、『日本人の食事摂取基準(2020年版)』では生活習慣病の発症予防のための食物繊維の目標量として、男性(18〜64歳)は1日20g以上、女性(18〜64歳)は18g以上が提示されています。「国民健康・栄養調査(平成28年)」の摂取量データでは、中央値が約10〜14gとなっているため、ふだんの1.5〜2倍程度の食物繊維をとるように心がけることが、食生活の腸活の第一歩となります。
食品表示法に基づく「食品表示基準」では、食品に食物繊維が含むことを表示(例:「食物繊維含有」「食物繊維入り」)する場合は100gあたり3g以上(飲料の場合は100mlあたり1.5g以上)、多く食物繊維を含んでいることを表示(例:「食物繊維たっぷり」「食物繊維豊富」)する場合は100gあたり6g(飲料の場合は100mlあたり3g以上)という基準値を満たす必要があります。これを参考に食品を選ぶのもよいでしょう。
また、食べ物だけに注意するのではなく、飲み込む前によくかんだり、ゆっくりと食べることも、大切な腸活になります。
まとめ〜おなかがよろこぶ腸活を続けて便通異常を防ごう
腸活を実行するにあたって「一つの方法を選べばいい」と錯覚しがちですが、同じ腸活といっても、上記の3種類で腸にどのように働きかけるかも違ってきます。今回紹介した腸活の中から、自分の体調や体質にあった腸活を組み合わせて「続けられる腸活」を目指して、便通異常の悩み解消へとつなげていきましょう。
【参考文献】
「便秘と食習慣」「食物繊維」「自律神経失調症」(厚生労働省「e-ヘルスネット」)
中野美和子「排泄のメカニズム」(『Consultant』Vol.271 建設コンサルタンツ協会 2016年4月)
「生活習慣で乱れた腸内環境を整える方法」(公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」)
『日本人の食事摂取基準(2020年版)』(厚生労働省)
「糖質と食物繊維について」(一般財団法人食品分析開発センターSUNATEC WEBサイト)
高野正太「慢性便秘症に対する食事療法,運動療法,理学療法」(『日本大腸肛門病会誌』第72巻10号 2019年)
「トレーニング:有酸素運動とは」(公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」)