ゴーダ、ブルー、カマンベール…などなど、あまたあるチーズの種類。あなたはいくつ知っていますか? 5種類? 10種類? 20種類も挙げられたらかなりのチーズ博士! しかし、それでも世界中で作られているチーズのほんの一部。チーズの種類はなんと1000をも超えると言われています。
今回は世界の珍しいチーズと、チーズ好きにはたまらないスパゲティのレシピをご紹介します。世界中で愛されてきた、奥深いチーズの魅力に迫ってみましょう。
目次
ヨーロッパだけじゃない!アジア生まれのチーズの歴史

ヨーグルトのように、世界で愛されている発酵食品は数あれど、チーズほど広い範囲の地域で、またさまざまな形で発展した発酵食品はないのではないでしょうか。
カマンベールチーズやモッツァレラチーズのようなヨーロッパ発祥のチーズは日本でも定番ですが、アジアにも古くからチーズの歴史が存在しています。たとえば、インドのパニール。カッテージチーズによく似た製法で、カレーやデザートの材料にも用いられます。また、遊牧民族国家であるモンゴルではチーズなどの乳製品を指すツァガーン・イデー(白い食べ物)という言葉が存在するほど、チーズをはじめとした乳製品が身近な存在です。
日本で乳製品が一般的に消費されるようになったのは明治時代以降ですが、実は日本人との出会いは飛鳥・奈良時代までさかのぼります。中国から伝来した「蘇」という食品で、牛乳や羊乳を約10分の1の体積になるまで煮詰めて作り、滋養強壮に役立つとして重宝されたことが伝承されています。つい最近では、ステイホーム中にやりたい“時間のかかること”として、「古代チーズ」とも呼ばれる蘇を作ることがSNSでブームになりました。
このように、世界中ではさまざまな種類のチーズが生まれ、今日まで受け継がれてきました。これらは、乳製品が人々にとっていかに大切な栄養源であったかということを示していると言えるでしょう。貴重な牛乳を保存するために、熟成、発酵の技術が生まれ、さまざまなチーズが世界中で誕生したのです。
100gで15,000円のものも!?
世界の珍しいチーズ3選

そんな種類豊富なチーズの中でも、特に珍しいチーズを3つご紹介します。
世界一高級なチーズ
「ドンキーチーズ」(セルビア)
チーズの原料となるミルクの多くは、牛や山羊のミルク。しかし、セルビア共和国のザサヴィツァ自然保護区では珍しい「ロバ」のミルクからチーズが作られています。この「ドンキーチーズ」こそが、いま世界でもっとも高級なチーズなんだとか。
というのも、ロバは1頭から搾乳できる乳の量が1日コップ1杯程度ととても少ないのです。その上、チーズのもととなる乳脂肪分も少ないので、極めて少量のチーズしか生産できないそう。100gで15,000円はくだらないと言うのだから驚きです。
遊牧民が生んだ乾燥チーズ
「クルト」(キルギス)
「クルト」はキルギスで有名な乾燥チーズ。遊牧民族の国家であったキルギスでは乳製品が欠かせない存在で、その加工方法も多岐にわたります。特に夏は家畜から取れるミルクの量が増えるので、乳製品がたくさん作られます。この夏の間に作った乳製品を、厳しい冬に備えるための保存食へと加工したもののひとつが、「クルト」なのです。
水を切って塊にしたヨーグルトを天日干しにし、固くなるまで乾燥したクルトは、塩分と乳酸の酸味とギュッと凝縮したような味わいなんだとか。遊牧民の人にとって、乳製品が貴重な栄養源だということが分かるチーズです。
世界で一番臭いチーズ?
「エピキュア」(ニュージーランド)
世界で一番臭い、との栄誉ある(?)称号を与えられたのが、ニュージーランドの「エピキュア」というチーズです。
チェダーチーズと同じ製法で作られますが、特徴的なのがその熟成のさせ方。缶詰に入れ、その中で2年以上発酵させます。発酵に伴うガスの発生により、缶は破裂しそうなほどに膨らみます。そう、言わば「シュールストレミング(ニシンの缶詰)」のチーズ版。その臭気は納豆の5倍に相当するとか……。その分うま味も強く、愛好家の多いチーズでもあります。
このように、一口にチーズと言えど、その製法や味わいはさまざま。まるでその国の食文化や風土が投影されているようで、知れば知るほどチーズの奥深い世界に引き込まれていきそうです。
そこで今回は、チーズの風味を存分に堪能できるパスタ「カチョエペペ」のレシピをご紹介します。カチョエペペはローマの伝統的なパスタで、具材はなんと、チーズのみ。チーズの魅力を味わい尽くしたいならぴったりのパスタです。
カチョエペペの作り方
■材料(1人分)
スパゲティ…90~100g
チーズ(ペコリーノ・ロマーノまたはパルミジャーノ・レッジャーノ)…50g
オリーブオイル…大さじ1
粗びき黒胡椒…適量
■作り方
①チーズをおろし器でおろし、ボウルに入れておく。

【ポイント】
チーズが主役の料理なので、粉チーズではなくぜひともおろしたてを使いたいところ。うま味の強いペコリーノ・ロマーノまたは
パルミジャーノ・レッジャーノがおすすめです。
②深めのフライパンに水1リットルを沸かし、塩小さじ2(分量外)、スパゲティを入れてパッケージの表記の時間通りゆでる。

【ポイント】
スパゲティのゆで汁でソースにとろみをつけるため、通常よりも湯の量を少なくします。ゆで汁に溶け出すでんぷん質が濃くなり、とろみがつきやすくなります。塩は味に影響するので、入れすぎに注意。
③おろしたチーズに、②のゆで汁を大さじ1杯ずつ加えてその都度混ぜ、合計大さじ4~5杯を加え、トロリとした状態にする。

【ポイント】
チーズに湯を少しずつ加えてよく混ぜ、ソースを作ります。トロリと乳化したらOK。チーズが固まって分離してしまうようだったら、スパゲティをゆでている鍋にボウルの底をあて、湯せんしながら混ぜて乳化させましょう。
④ゆであがったスパゲティを湯切りし、③に加え、オリーブオイル、黒胡椒を加えてよく混ぜる。皿に盛り、好みでさらに黒胡椒をかけ、できあがり。

【ポイント】
スパゲティ全体にしっかりソースが絡むように混ぜて盛り付けます。
黒胡椒は味のアクセントになるので、たっぷりかけましょう。
チーズだけでこんなにおいしい!シンプルを味わう「カチョエペペ」のできあがり

チーズと黒胡椒だけで仕上げる、ローマの伝統料理「カチョエペペ」のできあがりです。
カチョエペペと同じく、ローマ発祥とされるカルボナーラとよく似ていますが、ベーコンなどの材料が入らないカチョエペペはチーズの風味が味の要。おろしたてのペコリーノ・ロマーノやパルミジャーノをたっぷり使えば、シンプルなのに不思議なほど奥深い味わいの一皿になります。

ペコリーノ・ロマーノやパルミジャーノのようなハード系のチーズはカルシウムもたっぷり。さらに熟成期間が長いため、うま味成分であるアミノ酸やペプチドが豊富。だからシンプルな味付けでも、複雑な風味を与えることができるのです。
ハードチーズは賞味期限も長いので、ぜひ冷蔵庫に常備してさまざまな料理に使ってみてください。ゆっくりと熟成が進み、味の変化が楽しめます。
世界中で愛されてきた発酵食品・チーズ。乳製品のもつ豊富な栄養を菌の力で長持ちさせ、うま味を引き出す、古代から受け継がれてきた加工食品です。長い歴史に裏打ちされたおいしさと栄養を、これからも積極的に食卓に取り入れていきたいですね。

【参考文献】
NPO法人 チーズプロフェッショナル協会『世界のチーズ図鑑』(マイナビ出版 2015年)
「牛乳の歴史」(一般社団法人日本乳業協会 WEBサイト)