日本食と「乳酸菌」の長くて深い関係とは?

日本には漬物・味噌・醤油など、和食には欠かせない、さまざまな発酵食品があります。そもそも発酵食品とは、乳酸菌などの微生物が食品のなかに含まれる糖などを分解することでつくられます。

食品を発酵させることで保存性が高まり、風味やうま味が変化します。また、発酵食品に含まれる乳酸菌を摂り入れることで腸内環境を整えることもできます。ここでは、日本の発酵食品に注目して、それぞれの製造過程と乳酸菌の関係を紹介していきます。

乳酸菌による発酵で風味が生まれる「漬物」

日本食と「乳酸菌」の長くて深い関係とは?

漬物は主に野菜類の貯蔵を目的として、古くから寒い地域などでつくられてきました。もっとも基本的なものが「塩漬け発酵」です。

その目的は、塩分によって野菜の組織から余計な水分を出して腐敗を防ぐとともに組織内の酵素を利用してうま味を出すこと、そして、食品に付着した腐敗菌の繁殖を食塩濃度によって抑えることです。腐敗菌の繁殖が抑えられることで、乳酸菌などの有用な菌が繁殖し発酵が進みます。

製造過程で野菜に含まれる水分が抜けていくとき、ビタミンCやカリウムなどの水に溶けやすい栄養素が失わることがあります。しかしその一方、発酵が進むにつれて乳酸菌が増えるため、食品に含まれるビタミンB2は増加。

さらに、塩で下漬けしたものを糠(ぬか)などで本漬けする場合、糠に含まれるビタミンB1などが漬物に浸透して、別の栄養素が増加する傾向もあるそうです。

乳酸菌が特有の味や香りを生み出す「味噌」

日本食と「乳酸菌」の長くて深い関係とは?

日本で古くから使われている味噌。主原料は大豆ですが、味噌には麦味噌・米味噌・豆味噌など、地域によってさまざまな種類があります。それらの味噌の違いは、大豆を発酵させるときに使う「麹」の種類によって分けられています。

おいしい味噌をつくるためには、微生物の働きが欠かせません。必要になる微生物は、麹・酵母・乳酸菌の3種類。乳酸菌は乳酸をつくりだして大豆臭を取り除くだけでなく、味噌特有の「酸味」「香り」「味」などにも大きな影響を及ぼしています。

他にも乳酸菌は味噌のpHを下げるため、酵母菌が生育をしやすい酸性の環境をつくる働きがあります。

日本独特の調味料「醤油」ができるのも乳酸発酵のおかげ

日本食と「乳酸菌」の長くて深い関係とは?

醤油と言えば、日本料理を代表する日本独特の調味料です。大豆と小麦を原料としてつくった醤油麹に食塩水を加えて仕込み、約1年間熟成発酵させたものをしぼってつくられます。

乳酸菌は醤油のもとになる「諸味(もろみ)」の糖分の一部をさまざまな有機酸に変えることで、醤油に酸味と味の深みを与えます。乳酸発酵のおかげで諸味が酸性に傾き、酵母菌が活躍しやすい環境もつくっています。

醤油づくりに欠かせない乳酸菌や酵母菌は、人工的に培養したものを諸味に加える場合と、醤油の蔵のなかに住み着いているものが自然と入り込む場合があります。

昔ながらの製法でつくり続ける蔵では、木桶や柱や天井に乳酸菌や酵母菌が住み着いているため、常に蔵のなかを漂っています。それが諸味のなかに自然と入って発酵するため、蔵特有の味や香りが生まれるというわけです。

乳酸発酵で熟成する「なれ寿司」は平安時代から

日本食と「乳酸菌」の長くて深い関係とは?

なれ寿司とは、塩を漬け込んだ魚を米飯と一緒に熟成させた発酵食品です。現在の「握り寿司」の元祖とも言われるものです。

米飯には酢を使わずに、乳酸発酵によって酸味をつくりだすのが特徴。現在も日本各地の郷土料理として食されていて、滋賀県ではフナを熟成させた「鮒鮨」は特に有名で、古くは平安時代の記録にもその名が見えます。

なれ寿司の熟成期間は、短いもので数週間、長いもので数年間に及ぶものもあるとか。米飯のデンプン質が乳酸発酵し、魚肉の自己消化によって生成されるエキス成分や乳酸菌が生産する有機酸などが作用して、独特の香りと風味が楽しめるそうです。

漬物、味噌、醤油、そしてなれ寿司。他にも日本にはさまざまな発酵食品があります。おいしいだけじゃなく、乳酸菌が多く含まれる発酵食品は、食べ続けることで健康や美容にもいいのがうれしいところ。普段の食生活のなかに、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
「漬物」(『日本大百科全書』 小学館)
大西邦男、田中直樹「味噌製造工場 における乳酸菌利用の実例」(『日本醸造協会誌』第89巻 第4号 日本醸造協会 1994年)
河野一世、柴田英之「日本食からみる発酵食品の多様性と日本人の健康―肥満を中心に」(『日本調理科学会誌』 Vol.43 No.2 日本調理科学会 2010年)
「10-2 すしの始まりは“なれずし”から」(米穀安定供給確保支援機構「米ネット」)
「鮒鮨」(『日本国語大辞典』 小学館)

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