プレーンヨーグルトの容器を開けると、ヨーグルトの上にたまっている水分の存在に気付くはず。それこそが「乳清」、別名「ホエー」です。
一緒に混ぜるとヨーグルトが水っぽくなるのを嫌って、以前は捨ててしまっていた人も多かったといいます。その後、パッケージに「乳清は捨てないで」と表記されるようにもなり、捨てないもの、という認知が広まりましたが、その詳しい理由や乳清の正体を知っているでしょうか? そして捨てないほうがいい理由とは? 今回は、「乳清」について詳しく解説します!
目次
プレーンヨーグルトの普及とともに、乳清を知った日本人

日本でのヨーグルトの歴史は、文明開化の明治時代に始まります。日本でのヨーグルトの原型が作られたのは1894(明治27)年ごろ。売れ残りの牛乳を発酵させた「凝乳(ぎょうにゅう)」が売り出されたのが最初とされています。
「凝乳」に「ヨーグルト」の名称がついたのは大正時代のこと。当時は一部の人たちが珍重する程度で、一般的な食べ物ではありませんでした。戦後に本格的なヨーグルトの生産が始まり、徐々に普及し始め、今から30〜35年前ごろから、現在のような甘くないプレーンヨーグルトを日常的に食べるようになったといわれています。
しかし、当時は乳清がどのようなものか知られておらず、やはり“上澄み”と思われて、捨てられることも多かったようです。
上澄みのように乳清が生じる理由

この“上澄み”が生じる理由は、ヨーグルトのでき方に関係しています。
ヨーグルトは牛乳のたんぱく質であるカゼインが、乳酸菌の生成した乳酸により固まってできたもので、発酵が進むにつれて少し収縮します。その際に分離した水分がヨーグルトの上にたまります。乳清が上にたまっているのは、このためです。
乳清はヨーグルトの成分の一部で、しかも栄養が非常に豊富。乳清には、ヨーグルトの原料となる乳に含まれていた、水溶性のたんぱく質やミネラル、ビタミンが含まれており、もし乳清を捨ててしまうと、それらの栄養をも捨ててしまうことになるのです。
一部のメーカーでは、今もヨーグルト容器の蓋フィルムに「乳清を捨てないでください」と書かれていますが、まだまだ余分な“上澄み”だと勘違いしている人が多いのかもしれませんね。
乳清に含まれる「乳清たんぱく質」は健康成分が豊富

その栄養価の高さは、乳清を配合した赤ちゃん用の粉ミルクや、高齢者用の栄養食品なども作られているほど。そんな乳清の栄養成分の中でも注目を集めているのがたんぱく質です。
乳清には水溶性のたんぱく質、つまり「固まらないたんぱく質」が含まれています。なぜなら、固まるたんぱく質はヨーグルトになるから。それが、ラクトグロブリン、ラクトアルブミン、ラクトフェリンを主な構成成分とする「乳清たんぱく質」です。
乳清たんぱく質は「ホエープロテイン」とも呼ばれ、固まるたんぱく質のカゼインと比較して、体内への吸収が早いため、効率的にたんぱく質をとりたいスポーツマン向けのフードやサプリメントにも使用されています。
減塩レシピやブランド豚の育成にも、乳清が活躍!

栄養豊富な乳清の食べ方は、ヨーグルトに混ぜるだけではありません。マーマレードとハチミツを乳清に混ぜて作るレモネード、炊飯時に乳清を加えた「ホエーごはん」は含まれるカルシウム量が10倍になるうえ、すし飯を作るときに加えるお酢の量を半分に減らせて減塩になるなど、おいしく健康に役立つ使い方がたくさんあります。
また北海道では、牧場で製造されるチーズから生じる乳清を、豚に直接飲ませたり、粉末を飼料に混ぜたりして与え、「ホエー豚」としてブランド化する取り組みが北海道では行われています。
チーズ製造時に処理する乳の約9割が乳清になるといわれ、以前は産業廃棄物として捨てるしかありませんでした。ヨーロッパでの事例をヒントに、この乳清の処理を解決する方策として編み出されたのが、高タンパクで低脂肪、乳酸菌や乳糖などの栄養を豊富に含む特徴を生かした「豚の飼料」でした。
十勝支庁管内の養豚場や牧場が共同で発足した「十勝ホエー豚研究会」では、乳清を与える量や期間などの基準を設け、条件に当てはまる豚だけを「ホエー豚」と認定したり、中標津町のピックファーム大山では水分ホエー粉をたっぷりと食べさせて成育した豚を「なかしべつミルキーポーク」として販売するなど、味のよいブランド豚として人気を博しています。
「乳清たんぱく質の塊」=リコッタチーズ

そんな乳清を濃縮して固めたチーズがあるのをご存じでしょうか。それが「リコッタチーズ」です。
リコッタチーズが他のチーズと大きく異なるのは、その原料。普通のチーズがいろいろな動物の乳にレンネット(凝乳酵素)を加えて固まらせるのですが、リコッタチーズは乳清を原料としています。
チーズを作ったあとに出た、水溶性の乳清たんぱく質を含んだ乳清を大量に集め、釜で沸騰寸前の温度で熱すると、乳清たんぱく質が熱で固まります。トロトロしたたんぱく質を穴あきお玉ですくいとり、ざるにためて水分を切ったら、リコッタチーズのできあがり。まさに、乳清たんぱく質の塊です。
名前の「リコッタ」にはイタリア語で「二度煮した」という意味があるのだとか。カロリーも低く、さっぱりとしているのに乳の甘みも感じられるため、料理のほか、チーズケーキなどお菓子の材料にも用いられています。ハチミツをかけて、そのままスイーツとして食べるのもオススメです。
乳清とそこに含まれるたんぱく質の豊富さを知ると、ヨーグルトと一緒に食べるだけでなく、もっと積極的に料理にも活用したくなりますね。牛乳から乳清を作る方法や、ヨーグルトの乳清を使ったレシピ、また、リコッタチーズを使ったレシピを探して、チャレンジしてみませんか?
【参考文献】
長岡利「牛乳乳清タンパク質・ペプチドとカルシウムによるメタボリックシンドローム予防改善作用」(一般社団法人Jミルク『平成20年度 牛乳栄養学術研究会委託研究報告書』)
桑田有「ホエイからの各種有用成分の分離と栄養,機能食品への応用研究」(日本酪農科学会『ミルクサイエンス』 vol.61 No.2 2012年)
「リコッタを知ってますか」「乳清をすてないでください」(NPO法人チーズプロフェッショナル協会)
「【業務関連情報】世界中で愛されるヨーグルト」(独立行政法人農畜産業振興機構)
「プロテインパウダー」(国立スポーツ科学センター)
「ミルクレシピ」(一般社団法人Jミルク)
「チーズ・ホエーとホエー豚」(北海道養豚研究会「北豚News 第2号」)