「醤油」「味噌」「酢」を使っていない日本食を見つけるのは、かなり困難なことでしょう。それほど身近な、これらの調味料の歴史を弥生時代までさかのぼり(!)さらに現代の健康効果にも触れた、徹底解説書があります。
永遠の白米のお供! 三大調味料の歴史と底力に迫る

その飯に味噌をのせるだけでも、醤油をかけるだけでも、また酢飯にするだけでも、他に何がなくても美味しく食べられるのは、この三大調味料だけであろう。
「おわりに」に記されたこの言葉、日本人なら深くうなずいてしまいますよね。『醤油・味噌・酢はすごい – 三大発酵調味料と日本人』の著者は、発酵学の第一人者・小泉武夫氏。
小泉氏は福岡県の老舗酒蔵に生まれ、まだ発酵学が一般的でなかった時代に当時の日本で唯一発酵学が学べた東京農業大学へ進学。以来、発酵学や微生物学の研究を続け、現在では全国各地の大学で客員教授を務めているほか、数多くの著作を手がけています。

「甘酒は飲む点滴」という言葉を生み出した人物でもあり、日本独自の発酵文化に注目し続けている小泉氏が醤油・味噌・酢について、日本の食文化に根ざした歴史と、近年の科学的見地を踏まえた健康効果を、長年の研究を踏まえて紹介した一冊です。
戦国時代の武将たちも、味噌のパワーで戦っていた!

本書は三章に分かれており、一章ずつ醤油・味噌・酢について触れています。
各調味料の発祥や歴史にはじまり、製造方法や各地の違いも紹介。地域の気候や土地柄ごとに、実に多種多様な調味料があるだけでなく、特に醤油と味噌は、なんと神様として奉っている土地が少なくないことにも驚き。命や食への感謝が古来より続いてきた、日本の食文化の歴史を感じさせます。
また味噌の章では、戦国時代には作戦で味噌が重要な役割を担っていたというエピソードが!
例えば武田信玄は、遠征の際に街道の町村に大豆を配って味噌造りを奨励、道中味噌を買い取りながら進軍したという逸話にはじまり、伊達政宗は兵糧用の味噌を大量に買い占め、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に献上。朝鮮への遠征中に仙台藩の味噌だけは腐らなかったとして仙台味噌の名声を上げた……などなど。
さらに以下のエピソードからも、味噌は戦場において貴重な栄養源として非常に重宝されていたことが伺えます。
『前橋旧蔵聞書』には、「焼き味噌湯に立てて呑候へば終日食物仕らず候ても少しも餓ゑざるものに候」とか「焼味噌は息合(いきぎれ)に能く候」などが見える。また『軍議分類』には「陣中に干菜、干大根、蕨、芋の茎などを味噌にて塩からく煮付けて、干しかためて、紙袋、布袋などへ入れ持て、先に水を入れて煮ればそのまま汁になるべきなり」とあって、今日のインスタント味噌汁のようなものまでこしらえて戦地に赴いているのである。
また「手前味噌」という言葉は、そもそも各家庭で大豆と麹と塩を買ってきて、味噌を造るのが一般的だったことが由来です。そして本書によると、江戸時代に入って味噌の消費が急速に拡大したことで町に味噌麹屋が増えていった……とあり、こうした歴史から「手前味噌」が謙遜を意味する言葉に代わっていったのだろうなあ、と伺い知ることもできます。
酢があれば、減塩料理の「物足りない…」を解決

歴史だけでなく、最新の研究結果から各調味料の健康的効能にも注目しているのが本書の特徴でもあります。
よく「日本食は塩分過多だ」といわれますが、そこで酢の効果に注目。調理学に際してこんな効能が紹介されています。
酢はまた、料理において減塩効果をもたらしてくれる。和食を中心とした日本食は比較的多くの食塩を含むといわれてきたが、かといって塩分を減らせば「口淋しさを感じる」とか「味が薄い」、「味に物足りなさを感じる」などさまざまな不満が返ってくる。ところが、減塩にしてもそこに食酢を好みの量加えてやると、味全体を補強して満足を感じさせてくれるのである。
健康効果があるだけではなく、料理に欠かせない「うま味」まで保証してくれるなんて……。改めて、三大調味料が持つ非の打ち所がない効能にひれ伏してしまいます。
新書サイズのコンパクトな一冊は、小泉氏による発酵への愛情を感じられるような丁寧な解説で、分かりやすく読みすすめられます。
スムーズに豆知識を得られるだけでなく、日本史や日本食に興味を持った子どもたちと一緒に読み解くのもおすすめです。