あのニオイが腐敗を防止!?「くさや」が日もちする理由

2019.08.19

その名前を聞いただけで、あの独特のニオイが思い出されて顔をしかめるもいれば、焼きたてのくさやの干物のニオイと味を思い出して、お酒が飲みたくなる人も…。

くさい食べ物の代名詞でもある伊豆諸島の特産の干物「くさや」の、あの腐敗臭のようなニオイ。実は、あのニオイこそ細菌による発酵の賜物で、しかも干物を腐らせない秘密があるのです。

ぬか漬けのように「くさや」にも家庭の味があった!

あのニオイが腐敗を防止!?「くさや」が日もちする理由

数時間〜1日ほどつけ込んだ魚は、その後、水で洗って日干しにされます。こうしてできたのが、おなじみのくさやの干物です。

くさやの産地では、古くは家々に自家製のくさや液があり、嫁入り道具の1つだった時代もあったそうです。まるでぬか床でつけた漬物のように、それぞれの家の「くさやの味」があったのです。今でも、八丈島産のくさやと、新島産のくさやでは味が違うのだとか。その理由は「塩分」にあります。

くさやがくさいのは「塩分控えめ」だから!?

あのニオイが腐敗を防止!?「くさや」が日もちする理由

伊豆諸島だけで作られているという古くからの特産品、くさや。その材料となる魚は伊豆諸島近海で取れるアオムロ(ムロアジの一種)やトビウオなどです。これをさばいて内臓を取り除き、真水に漬けて血を抜いたあと「くさや液」につけ込みます。

日本全国で広く作られている干物は、塩汁や塩につけて作りますが、伊豆諸島ではなぜくさやの干物が作られるようになったのでしょうか? 一説には、江戸時代、伊豆の島々では塩で干物を作っていましたが、当時は貴重品だった塩を節約するために、同じ塩水に何度も魚をつけこむうち、魚のエキスが塩水に溶け出し、くさや液が生まれたと言われています。

一般的な干物で用いる塩水の濃度は15%ほどなのに対し、くさや液の塩分濃度は8〜10%。この塩分の薄さが、実はあのくさやのニオイの理由に関係しています。塩分が薄いがゆえに、通称“くさや菌”が増殖され、発酵・熟成してあのニオイのもとが生まれるのです。

食品微生物学の藤井建夫氏の調査によると、くさや液の塩分濃度は伊豆諸島の島々によっても異なり、八丈島のくさや液で8.0〜11.1%、そのほかの島では2.7〜3.7%だったといいます。この違いが、各島のくさやの干物の味の個性を生み出しているのです。

くさいのに、腐りにくい?

あのニオイが腐敗を防止!?「くさや」が日もちする理由

発酵によって生じる、まるで腐ったようなニオイ。しかし、このニオイこそが日もちする理由にもなっています。

藤井氏の著書によると、同じ魚を塩干しにしたものと、くさやにしたものとで、どちらが腐りにくいかを比較した実験では、次のような結果になったといいます。

腐敗の指標としてトリメチルアミン酸と生菌数を比較してみると、不思議なことにくさやの方が倍近く日もちがよい。これは実はその原因がくさや汁の中にいる微生物の働きによっているのである。

『魚の発酵食品』P49-50

腐敗を防いでいるのは、くさや液中の細菌の大部分を占める「コリネバクテリウム属」の細菌が生産する天然の抗生物質。これが腐敗細菌の増殖を抑えているため、くさやの干物は日もちするのです。

くさやを生産する人たちは、この天然の抗生物質入りのくさや液に触れているため、手にケガをしても化膿しないといいます。また、くさや液を薄めて、下痢の薬として飲んでいたという話もあるのです。

本場のくさやを、現地に行かずとも購入するには?

あのニオイが腐敗を防止!?「くさや」が日もちする理由

新鮮なくさやの干物を味わうには、やはり産地に赴くのが一番。しかし、忙しくてなかなかそこまでは…という方には、伊豆諸島への定期船の玄関口「竹芝客船ターミナル」(東京都港区)内にある、伊豆諸島・小笠原諸島のアンテナショップ「東京愛らんど」がオススメです。こちらでは産地直送のバラエティ豊かなくさや商品が揃っています。過去に行われたイベントでは「サメ」「キンメダイ」など珍しいくさやの干物が店頭に並ぶこともあるそうです。

菌の力を、ニオイと味で感じられるくさやを、この機会に味わってみてはいかがでしょう?

【参考文献】
藤井健夫『魚の発酵食品』(成山堂書店)
「くさやとは」(新島水産加工業協同組合WEBサイト)
「くさやについて」(八丈島水産加工業協同組合WEBサイト)
「くさや」(『日本大百科全書』 小学館)

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