「腸の声」に耳を澄ますには?腸内細菌との正しい付き合い方は“食事”にあり!

2019.05.24

「腸がわかれば、自分がわかる」−−腸の役割は栄養の吸収や排せつだけで、脳や心臓に比べると重要度が低い…というのは大きな勘違い。実は、腸の働きは、心や体に大きな影響を与えます。

ということは、腸や腸内細菌の存在を知り、その”メッセージ”を受け取ることができれば、気づかなかった「自分」が見えてくるのではないでしょうか。

今回は「腸」の声に耳を澄ます方法を、最新の医学研究結果を交えて詳しくわかりやすく紹介している、1990年生まれの微生物研究者、ジュリア・エンダース氏の著書『おしゃべりな腸」をご紹介します。本書はドイツでミリオンセラーになったのをはじめ、ヨーロッパ各国でベストセラーとなりました。

『おしゃべりな腸』/エンダース ジュリア 著/岡本 朋子・長谷川 圭 訳/サンマーク出版

著者のジュリア氏は、帝王切開で生まれ母乳を飲まずに育ったといいます。すると、5歳で乳糖不耐症になり、17歳になると謎の傷に悩まされます。医者もお手上げ状態だったころ、自分で原因を調べたジュリアさんは自分と似たような症例を見つけます。それは「抗生物質を服用したところ傷が現れはじめた」というものでした。

ジュリアさんも最初の傷ができる前に抗生物質を飲んでおり、自分の病気の原因が「皮膚病」ではなく、「腸」にあるのではと考えるようになります。それがきっかけとなり、医学の道に進み「腸」の研究者になったというエピソードの持ち主です。

本書は医学書でありながら、軽妙でユーモアのある語り口で自然と「腸」の役割やその存在の重要性を知ることができます。また、肥満、アレルギー、うつや自殺などの気分にも大きく影響を与える「腸」について、最新の医学研究結果や付き合い方から腸内環境の改善のヒントを教えてくれる1冊です。

繊細で、責任感が強く、有能な器官「腸」

小腸と大腸からなる腸を、ジュリア氏は「繊細で、責任感が強く、有能な器官」と表現します。

小腸の内側は、ヒダが幾重にも折り重なり、繊毛で覆われ、その繊毛の先にも繊毛があるなど、表面積を最大化するため内部は繊細に設計され、引き伸ばすと7メートルにもなります。胃から送られてきた内容物に肝臓や膵臓で作られた消化液を混ぜて、たんぱく質や脂肪や炭水化物を分解し、腸壁から血液の中に取り込む「消化・吸収」が行われています。

また、大腸といえば排せつに関わる器官であるというイメージが強いですが、「排せつ」という大切な行為の前に丁寧に食べものを分解し、重要なミネラルをはじめ、ほかの場所では吸収できない栄養素も取り込んでくれます。

「繊細で、責任感が強く、有能な器官」である理由は、栄養素を取り込むだけではありません。腸は消化・吸収をするだけでなく、腸に集まるたくさんの神経を利用して脳にシグナルを届けます。腸からのシグナルは感情の処理や不安や記憶などに影響していると著者は述べています。

腸には身体のほかの部位とは比べものにならないほどたくさんの神経が集まっており、ほかでは見られない特別な神経もたくさんあります。シグナル物質の集合場所であることに加えて、神経伝達物質や神経回路もたくさんあります。これほど精巧な臓器は、腸以外には脳しかありません。腸はとても大きく、神経ネットワークも発達していて、しかも、化学的にも脳と同じように複雑な仕組みをもっていることから、「腸脳」や「腸脳力」という言葉で説明されることもあります。(本書146ページ)

腸からの情報は、島皮質、大脳辺縁系、前頭前皮質、扁桃体、海馬、前帯状皮質に届けられます。これらの領域の働きをごく大雑把にまとめると、自己認識、感情の処理、道徳観、不安、記憶、動機付けなどです。もちろん、私たちの道徳観を腸がコントロールしているわけではありません。でも、少なくとも影響はしています。(本書149ページ)

腸内フローラには、大きく分けて3つのタイプがある

腸のなかに生息し、腸に必要なエネルギーの補給や免疫力の強化、さまざまな物質を生み出したり分解したりと私たちが生命を維持するために、一生懸命働いてくれる腸内細菌は、グループごとに生態系を織り成し「腸内フローラ」とも呼ばれます。

腸内フローラがどんな細菌から成り立つかは、1人ひとり違います。(本書189ページ)

腸内フローラは基本的に生まれてから3年間で整います。(本書193ページ)

人間は、母親のおなかの外へ出た瞬間からさまざま菌を取り込むこととなり、腸内フローラの構成は基本的に生まれてから3年間で整うとジュリア氏は説明します。そして、その腸内フローラがどんな細菌から成り立つかは、1人ひとり違うといいます。不調や好調の理由はほかでもない自分の「腸」に注目し、耳を傾ける必要があるのです。

たとえ双子でも、腸内細菌の種類や構成、数などは同じではなく、個々がそれぞれの腸内フローラを持っています。ジュリア氏によれば、これまでの研究で、どの細菌を多く持っているかによってそのタイプを3種類に分けることができるそうです。

バクテロイデス属…肉が大好きな人の腸内にいることが多く、バクテロイデス属の細菌は炭水化物を分解するのが得意です。また、さまざまな遺伝子をもっているので、腸内に入ってきた食物の種類によって自らつくり出す分解酵素を変えることもあります。実は、どんな小さな食べものもエネルギーにつくり替えることができる、というバクテロイデス属特有の能力が、肥満の原因ではないかとも言われています。

またバクテロイデス属は、ビオチンをたくさんつくり出すことでも知られています。ビオチンとはビタミンB7、ビタミンHのことをいいます。ビタミンHは生卵に含まれる毒性物質、アビジンの解毒をしてくれます。皮膚病はビタミンHが欠乏することで起こると言われています。

ビタミンH、つまりビオチンが不足すると、肌や髪や爪にトラブルが起きるだけでなく、憂鬱な気分や倦怠感や神経障害が引き起こされたり、病原菌に感染しやすくなったり、コレステロール値が上がったりします。(本書209~210ページ)”

バクテロイデス属の腸内細菌が多ければ、体に必要なビオチンをつくり出すことができる半面、どんな小さな食べものもエネルギーにつくり替えることができる特性が肥満の原因となっている可能性があるというのです。

プレボテーラ属…バクテロイデス属と正反対の細菌群であるとも言えます。これまでの研究では、菜食主義者やあまり肉を食べない人、または肉を食べすぎる人の腸でプレボテーラ属の腸内細菌が多く見つかっています。人間の粘膜から良質のタンパク質を見つけ出すのが得意です。見つけたタンパク質は自分で食べたり、必要な物質をつくり出すときに利用したりします。プレボテーラ属が活動すると硫黄の化合物が生じます。

プレボテーラ腸タイプの特徴は、硫黄の化合物と硫黄臭を発生させること、そして人間の健康に必要不可欠なビタミンB1、いわゆるチアミンをつくり出すことです。人間の脳は神経細胞を養うためだけでなく、電気を通さない脂肪膜で細胞をおおうためにもチアミンを必要とします。ですからチアミン不足になると、筋肉の痙攣が起こったり、忘れっぽくなったりします。(本書213ページ)

プレボテーラ属の腸内細菌は大事なビタミンを補ってくれる優秀な細菌なのですね。

ルミノコッカス属…ルミノコッカス属についての科学者の意見は分かれています。ルミノコッカス属は存在するかもしれない−−とりあえずはこう考えて続きを読んでください。ルミノコッカス属の細菌の大好物は植物の細胞壁です。

ルミノコッカス属の細菌はヘムという鉄を含んだ赤い色素をつくり出します。人間の身体は血液をつくるときにこの色素を用います。(本書215ページ)”

ルミノコッカス属はその存在がまだ研究者によって認識が異なるようですが、血液をつくるのに必要な細菌であることは間違いないようです。

このように人間の腸を3つのタイプに分け、腸の中にある法則を導き出す研究は始まったばかりだそうですが、今後、研究が進めば、病気や肥満、うつなどへの影響やそれぞれのタイプごとの解決策もわかってくるかもしれません。

“腸のおしゃべり”に耳を傾けるには?

腸は多弁ですが、その声は耳を澄ませなければ聞こえません。では「おしゃべり」に耳を傾けるには、どうすればいいのでしょうか? ジュリア氏は「食事」を選ぶことだと語ります。

食事は第1に人間のため、第2に腸内細菌のためにある。このことを忘れないようにしましょう。(本書322ページ)

大事なのは、腸内細菌が一緒に食べてもいいと思えるような食品を選ぶことです。(本書(326ページ)

この2つのポイントから、食事はただ気の赴くままにすればいいのではなく、腸内細菌に正しく働いてもらうためには、彼らの喜ぶ食品を選ぶことが必要であることがわかります。実感はなくても、人間と細菌は“同じものを食べて”共存しているのです。

だからこそ、腸内の大事な菌に悪い影響を与えないように、日頃から殺菌しすぎない、抗生物質を使いすぎないこと。そして、いい影響を与えるように、ガラクトオリゴ糖を作る生活にすることや乳酸菌や発酵食品などの「プロバイオティクス」、善玉菌の栄養素となる食物繊維などの「プレバイオテイクス」を積極的に摂ることを心がけたいものです。

本書のタイトル「おしゃべりな腸」が表すように、「腸」は日々私たちに語りかけているにもかかわらず、私たち自身がそれに気づかないだけなのではないか……読めば読むほど腸の不思議に驚かされます。

腸の役割や腸と脳の関係、腸内細菌の話から「腸」を身近に感じられるだけでなく、腸に働いてもらうための方法、いい油・悪い油と正しい脂肪の摂取のコツ、抗生物質との付き合い方など、腸内環境改善に役立つ情報が満載です。

もし、腸のおしゃべりに耳を傾けることができたなら、自分の腸についてもっと知ることができたなら、心も体も健やかに過ごせるに違いありません。

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