未放映情報が詰まった“ディレクターズカット”本で、「腸内フローラ」の真実に迫る!

2019.03.31

人類の進化、世界遺産の謎、宇宙開発の裏側、国際問題の鍵など、あらゆる骨太なテーマに迫り、追究し続けるNHKのドキュメンタリー番組「NHKスペシャル」。2015年2月22日に放送され、大きな反響を得た同番組の「腸内フローラ 解明!驚異の細菌パワー」の取材班により執筆された書籍が、今回紹介する『やせる!若返る!病気を防ぐ!腸内フローラ10の真実』(主婦と生活社)です。

取材班が“泣く泣く削った”未放映部分
まで詰まった完全版

『やせる! 若返る! 病気を防ぐ! 腸内フローラ10の真実』/NHKスペシャル取材班 著/主婦と生活社

人間一人の体のなかにすんでいる腸内細菌の数は、なんと100兆個とも言われています。その腸内細菌たちは、私たちが食べたものをエサにして、互いに競い合ったり助け合ったりしながら“生態系”を作っており、その生態系は「腸内フローラ」と呼ばれています。

そして番組放送以来「腸内フローラ」という言葉は、さまざまなメディアで取り上げられてきました。しかし、本書の冒頭では

腸内フローラの最新研究でわかってきた事実は、従来の人間観をくつがえしてしまうような、本質的で革命的な話です。一時すごく話題になって、すぐに忘れ去られてしまうような中身の薄い健康情報ではないのです。

と、腸内フローラが健康トレンドのひとつとして扱われることを真っ向から否定。本書はNHKスペシャル取材班が番組を作るうえで“泣く泣く削ぎ落とした”情報まで網羅したという、いわばNHKスペシャルのディレクターズカットのような内容となっています。

世界に流布する、腸内フローラの情報の真偽に迫りつつ、当時の最新の研究結果を交えながら、ダイエットや糖尿病の改善、肌の改善や精神の健康にも腸内細菌が関わっていることを説明。さらに「なぜ、腸の中にいる細菌がこんなにも体や心に大きな影響を与えるのか?」という根本的な疑問に迫ります。

私たちの性格や感情も
腸内細菌が決めていた!?

腸内フローラの影響は体の不調と結びつけて語られることが多いのですが、「至って健康で、病気の心配はない」という人にも、実は腸内フローラは関係しています。本書によると、なんと「マイペース」や「繊細」などといった性格も、腸内細菌によって形成されているというのです。

脳の働きに腸が関係していることは「脳腸関係」と呼ばれ、例えば「ストレスを感じると、おなかをこわしてしまう」ように、腸の病気は脳の働きと連動して起こることがとても多いため、古くから医療の現場では知られていました。それをさらに突き詰めていくと「腸が”考えている”」とさえいえると、本書では指摘しています。

人間の脳は1000億個の神経細胞がネットワークを作り、電気信号をやりとりすることで、記憶したり、考えたりしています。

一方、腸にも神経細胞があり、腸管の周りをびっしりと覆うネットワークを作っています。「腸管神経系」と呼ばれ、人体の中では脳に次いで2番目に神経細胞が集中している臓器です。腸管神経系の神経細胞の数はおよそ1億個。イヌの脳とほぼ同じです。イヌが賢い動物であることは皆さんもご存じのとおり。その脳と同じ数の神経細胞が私たちのお腹の中にあると考えると少し不思議な気持ちになります。もしかして、腸は“考えている”のでしょうか?

生物の進化の歴史を考えると、腸が“考えている”としても少しもおかしくありません。

さらに、腸が”考える”仕組みを、自律神経の一種で気分や感情に強い作用を及ぼす「迷走神経」の役割のひもときながら、分かりやすく解説しています。

腸内細菌が作った神経伝達物質を腸の神経が受け取ると、それは刺激として次々と神経細胞に伝わっていきます。そして、“直通回線”である迷走神経を介して、私たちの脳にも届けられます。大げさに言えば、腸内細菌は脳に対して“話しかける”ルートを持っているのです。

私たちが日々感じる喜怒哀楽は脳が感じていたのではなく、まず腸が受け取り、脳に届けていたとする考え方です。キューピッドの放つ矢が胸に刺さった瞬間、人は恋心を抱く…という表現は実は間違いで、正しくは腸を射抜くべきだったのでは……?などと思えるほど、感情の捉え方が一変する研究結果です。

この腸と脳との関係性が解明されれば、将来的にはうつ病や精神病の治療を、脳ではなく腸内細菌に働きかけることで改善できる可能性があるとしています。複雑怪奇でいまだに解明されていない部分も多い脳を治療すると言われるよりも、「腸内細菌の治療」と言われるほうが「早く確実に治せそう!」と心理的な負担も小さくすみそう。

まだ脳の研究結果の多くは動物実験の段階であるようですが、目に見える特効薬がない「心の病」の治療に、明るい展望を感じます。

番組を見ているような
「分かりやすさ」でサクサク読める

やせる!若返る!病気を防ぐ!腸内フローラ10の真実

また本書では、人間だけでなく「生物の進化にいかに腸内細菌が影響してきたか」について、なんと恐竜の時代にまでさかのぼり、その理由を追い求めます。海外の研究機関への取材を通して腸内細菌の役割に迫っていく専門的な内容ですが、各要点は分かりやすくポイントにまとめられています。

例えば、アメリカのニューオリンズにある腸内細菌をもちいた「糖尿病の新薬」を開発するベンチャー企業を訪れた際のエピソードは、以下のように始まります。

アメリカ南部の都市ニューオリンズは、音楽の聖地と言われる場所のひとつです。街を歩けば、あちこちから軽快なリズムが溢れ出し、その賑やかさに驚かされます。そして、もうひとつ驚いたのは、アメリカ人の肥満率の高さです。日本ではそうそうお目にかかれない200キロ級の人たちと、頻繁にすれ違います。
取材班のカメラマンはさっそく、川沿いの遊歩道で通行人のお腹を撮影しはじめました。いわゆる“イメージカット”と呼ばれる映像です。ほんの1時間ほどの撮影で、見事な太鼓腹がふんだんに入った“肥満イメージカット”が集まりました。
肥満大国、アメリカ。遺伝的には日本人より糖尿病になりにくいにも関わらず、大人の3人に1人が糖尿病か、その予備群と言われています。それをひと目で納得できる光景でした。あの大きなお腹の中にはどんな腸内細菌が住んでいるのだろう? ついつい、そんなことを考えてしまいます。

まるで紀行文のような導入に、その国が抱えている健康問題や、それに腸内細菌が関わっているという着眼点がスムーズに頭に入ってきます。ほかにも腸内細菌の作用を利用して、大便を移植して難病を治す最新治療を受ける人への取材は、以下のように書かれています。

私たちがロシェルさんの自宅を訪れたのは、移植の前日でした。
玄関で出迎えてくれた彼女は、重い病気にかかっているという感じこそしませんでしたが、顔色は青ざめ、声に力がありません。今の病状や、これまでの経緯などを聞いたあと、申し訳ないとは思いつつ「この治療法に抵抗はないですか?」と聞いてみました。すると、ロシェルさんはこう言いました。
「抵抗はありません。医師を信頼しています。もちろん、ちょっと怖い気はしますが、この方法しかないんです」
表情には、ゆるぎない決意がみてとれました。

こちらも、人物の姿や感情を思い描けるような描写に。こうした文章の書き方だけでなく、図やグラフのほか「Eテレ」の潮流を感じるかわいらしいキャラクターなどを交えて構成されているため、まるで番組を見ているように映像を思い浮かべながらサクサク読み進めることができます。

腸内細菌にまつわる専門的な内容を取り上げた内容ながら、誰しもがスムーズに理解できる一冊ではないでしょうか。

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