現代人の腸内細菌が“絶滅の危機”!? を救う「MAC」とは?

2019.03.04

ヒトの体内には多種多様な菌が存在しており、特に腸の中には100兆を超える細菌が存在しています。そんな細菌の集まり「マイクロバイオータ(細菌叢)」が、現代人が抱える病気、肥満、アレルギー、生活習慣病などに大きな影響を与えていることが、近年の研究で少しずつ明らかになってきています。

腸内細菌に関する書籍も多く発刊されています。今回紹介する『腸科学——健康・長生き・ダイエットのための食事法』も、そんな1冊。著者のジャスティン・ソネンバーグ氏とエリカ・ソネンバーグ氏の夫妻は共にスタンフォード大学スクール・オブ・メディスンの微生物学・免疫学部で研究を行う、腸と細菌の専門家です。彼らがいうには「100兆個の細菌が飢えている」のだとか。体内の腸内細菌が飢えてしまったら……私たちの体にどんな影響を及ぼすのでしょうか。

腸内細菌は絶滅の危機に瀕している

『腸科学――健康・長生き・ダイエットのための食事法』/ジャスティン・ソネンバーグ&エリカ・ソネンバーグ 著/鍛原多惠子 訳/早川書房

同書では、今、欧米をはじめとする先進国の人々の腸内に存在するマイクロバイオータが飢餓状態にあり「絶滅」の恐れにある、というのです。

私たちの腸内細菌は絶滅危惧種のリストに載っているのだ(本書18ページ)

腸内に存在するマイクロバイオータが多様で健康なほど、免疫力が高まりますが、その反面、マイクロバイオータの多様性が損なわれたり不健康であると、現代病やアレルギー、肥満など健康に影響を及ぼす可能性が高くなります。その関連性を「食」をテーマにひもといています。

ソネンバーグ夫妻によると、ヒトが口にする食物をエサにして生きるマイクロバイオータは、過剰に加工された現代の食事によって「飢えている」といい、また、抗生物質の濫用、殺菌が進んだ家屋が理由で、その存在自体も脅かされているというのです。つまり私たちの体の健康を保つためには、「マイクロバイオータが活動するために必要な食べ物」を摂取することも重要なのです。

飢えた細菌類が喜ぶ栄養素とは…
実は身近なアレ!

腸内の微生物は主に食物繊維を含む複合炭水化物を食べる(本書150ページ)

マイクロバイオータが必要な食べ物とはズバリ「食物繊維」です。何万年にもわたってヒトの多様なマイクロバイオータを植物性の食べ物が養ってきました。しかし現在の私たちの食生活では植物性食品の摂取量が減ったことで、微生物が“飢えている”のだと、夫妻は述べています。

パスタやパン、白米などデンプン質の多い食品や炭酸飲料などに含まれる単純炭水化物はヒトの小腸で吸収されてしまい、大腸の微生物にまでは届きません。そのため、マイクロバイオータが食べる、「MAC(Microbiota accessible carbohydrates)」の摂取量を増やす必要があります。

食物繊維に含まれる炭水化物なら腸内の細菌の食べ物になる。MACをたくさん食べればマイクロバイオータに栄養を届け、腸内細菌の生存を助け、この細菌集団の多様性を改善できる(本書150ページ)

「MAC」=微生物によって
発酵される炭水化物


私たちの腸の細菌を多様化させるための“細菌の源”となる食品としては、ヨーグルト、ピクルス、ザワークラフト、キムチ、紅茶きのこなど、細菌が入った発酵食品、庭やペットにいる環境内の微生物などがあります。

「MAC」とは、果物や野菜、豆類、穀物などさまざまな植物に含まれ、マイクロバイオータによって発酵される炭水化物のことだ(本書168ページ)

MACを直訳すると「マイクロバイオータへ到達する炭水化物」。マイクロバイオータの「エサ」になる炭水化物という意味です。代表的な食品としては、タマネギ、リンゴ、小麦ブラン(表皮)、全粒大麦、キノコなどで、マイクロバイオータにどのMACを与えるかによって、腸内で繁殖する微生物群や数、細菌が果たす機能が変わってくるといいます。

フランスで行われた、マイクロバイオームに含まれる遺伝子の数を調べた研究(本書171ページ)では、少数の種類の遺伝子しか持たない人は、多様な遺伝子を持つ人よりも野菜や果物をはじめとするMACの摂取が少ないことが発見されたといいます。精製されたものや加工された食品では、MACを摂取することが難しく、腸の中の細菌を健康に保つことができないのです。

精製食品にはMACがない(本書174ページ)

腸内のマイクロバイオータは、アレルギーや病気、肥満などと同時に脳機能や行動にも関わっていることが研究によって明らかになってきています(本書186ページ)。ヒトが心身ともに健康でいるためには、細菌類に活躍してもらう必要があり、またそのためには腸の細菌まで届き、彼らに発酵してもらえるMACを意識して取り入れていく重要性を本書は紹介しています。

カロリー計算を重視してダイエットをしていたら、腸の調子がいまいち…といった悩みは、実は、腸内細菌も“ダイエット”させていたのが原因かもしれません。「ヒトとマイクロバイオータの関係」がとてもわかりやすく解説されており、腸内細菌やマイクロバイオータについて知りたい人への入門書ともいえる1冊です。

 

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