細菌が“心と体の健康のカギ”を
握っている!?
体内の細菌と上手に付き合うには?

2019.02.04

「人間の体は何でできているのか?」と聞かれたら、あなたはどう答えるでしょう?
血液と肉と骨と皮膚と……。それとも、その元になる「水」「たんぱく質」「脂肪」でしょうか? それだけではありません。生命の維持に欠かせない大きな存在が「細菌」をはじめとする体内の「微生物」です。「大きな存在」と聞いてもピンとこないかもしれませんが、意外にも人間の体内のヒトの細胞1つに対し9つの細菌や菌類が存在していると言われています。

つまり、私たちの体の「ヒト」の細胞は10%で、90%は細菌や菌類から作られている、とも考えられるというのです。しかも、その細菌の存在やバランスが、病気やアレルギー、肥満などをはじめとした心と体の健康に深くかかわっているとしたら……本書は「知らない」では済まされない体内の菌について知ることができる1冊です。

100兆個もの微生物と進化し続ける私たち

『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』/アランナ・コリン著、矢野真千子 訳/河出書房新社

『あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた』の著者アランナ・コリン氏は、進化生物学の博士号を持ち、イギリスの高級紙『サンデー・タイムズ・マガジン』や伝統紙『ガーディアン』などに寄稿する、サイエンスライターです。

内なる生態系を意識するようになると、自分自身を新たな目で見るようになる。私たちは微生物ワールドと切っても切れない関係にある。

私たちは体内の約100兆個の「マイクロバイオータ」と呼ばれる共生微生物たちに頼るように進化を続けており、その微生物生態系のバランスが崩れると健康に影響を与えると、コリン氏は述べています。

ヒトと菌の歴史に4つのイノベーションあり

それでは、「マイクロバイオータ」の生態系バランスが崩れるとどうなるのでしょうか?

一九世紀後期から二〇世紀にかけての医療改革と公衆衛生対策は、ヒトとしての生き方を大きく変えた。

ヒトと細菌の歴史の中には、「予防接種」「医療現場の衛生管理」「水質浄化」「抗生物質」という4つのイノベーションがあるとコリン氏は述べています。これらが整備されることにより、ヒトは感染症などの病気を防げるようになった反面、抗生物質などの過剰摂取によりマイクロバイオータが乱され、花粉症や肥満、うつ病などそれまで存在しなかった病気が誕生し、ここ数十年で増加するという結果になった、というのです。

こうした長期的な影響は、普及率の高い抗生物質薬の少なくとも六種類で確認されており、どれもマイクロバイオータの組成比をそれぞれ別の比率に変えてしまう。

例えば、2歳までに抗生物質の治療を受けた子供はのちに喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症を発症する率がそうでない子どもと比べて2倍も高いといいます。これは抗生物質の投与によって、関係のない細菌まで大量に破壊してしまったり、マイクロバイオータの組成比を変えてしまうことが一因だと述べられています。

カロリー計算では
体重コントロールはできない

アメリカでは1950年代から体重の増加が目立ち始め、現在では約7割の人が肥満または過体重であり、全世界でも肥満の傾向にあると言われています。

地球上の成人は、三人に一人が過体重で、九人に一人が肥満だ。なおこの比率は、過体重より栄養不良のほうが心配な地域を含めた全世界の平均値である。

そこで取り組むのがダイエット。カロリー摂取と運動量に着眼することが多いと思いますが、コリン氏はここにも微生物との深い結びつきがあると述べています。

摂取カロリーは実際にどれだけ食べるかよりも、腸がどれだけ吸収するかで決まる。その吸収量は手伝ってくれる微生物がどれだけいるかに左右される。消費カロリーについても同様で、運動で使うエネルギーだけで決まるものではない。そのエネルギーを備蓄しておくのか、すぐに燃やして使うのか。抱えている微生物集団しだいで、エネルギーを多く吸収・備蓄できる人とできない人に分かれる。

つまり、「摂取カロリーから消費カロリーを引いた分の体重が増える」という単純な計算とはならず、いくらカロリーを気にしても、運動をしても、それぞれが持つ微生物の働きによって効果は異なるということなのです。人の体重は食生活(特に食物繊維の摂取量)、微生物、短鎖脂肪酸、腸壁の透過性、慢性炎症の相互作用の影響を受けるといいます。

本書で紹介された「アメリカの若年成人を対象にした研究」では、「脂肪や糖の摂取量に関係なく食物繊維の摂取が多いとBMI値が低くなる」ことが示されています。その理由は、食物繊維を含む食品を食べると腸壁の防御を強化する細菌が増え、その細菌が食物繊維を分解するときに出す短鎖脂肪酸によって、脂肪細胞の肥大化が防げるためだといいます。

私自身と私のマイクロバイオータはまとめて一つの『チーム』なのだ

私たちが健康でありたいとき、ダイエットして体重を減らしたいとき、花粉症などのアレルギーに苦しむとき、それは自分の体の中に共生している細菌や微生物について、もう一度見直すべきタイミングなのかもしれません。だって、私たちの体の90%は細菌でできているのですから。

本書は生物学を学んだ経験のない人にもやさしい言葉で微生物の働きや重要性などを、さまざまな実験結果を基にわかりやすく説明していて、とても面白いです。普段の食生活や抗菌や除菌について、抗生物質、出産や授乳の方法など、自分で選択することで、細菌や微生物と上手に共存できると語られています。

自分の体は自分のものではなく、細菌や微生物のもの……。本書を読むことで自分の体と「細菌」の関わりについて、ガラリと考え方が変わるかもしれません。

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