腸のなかの“お花畑”には個性がある?「腸内フローラ」とは

2019.01.11

腸のなかの「お花畑」とは?

“腸内フローラ”という言葉、ご存じでしょうか?

フローラ(Flora)は「お花畑」と表現されます。しかし、内視鏡で撮影した腸内の写真を見ても、見えるのは赤い粘膜だけでとても「お花畑」には見えません。ではいったいなにが「お花畑」のようなのでしょう。

一面に広がるお花畑をイメージしてもらうと、花々が群生している様子が思い浮かびませんか? 同じ色の花が群生しているその隣に、違う色の花が集まり、縞模様を織りなしている花畑は誰もが一度は見たことがあるのではないでしょうか。人が手入れをしたお花畑では整然と列をなしてくっきりと分かれています。一方、自然に発生した花々の群生は境界があいまいかといえば、そうではありません。花や植物の種類ごとに境界はハッキリとしています。この様子を「フローラ(植物群)」と呼びます。「腸内フローラ」のフローラとは、「同じ植物がまとまって群生している」ように、同じ種類の細菌が群れをなしている様子を表現しているのです。

日本語では「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」と呼ばれます。ちなみに「叢」とは草々が集まる「くさむら」や、草に限らず「群れている・集まっている」状態を示す言葉です。さまざまな書物をまとめたものを「叢書」というのも、その意味から来ています。

生まれたばかりの赤ちゃんの腸は無菌!菌はどこから来るのか?

人間の体は約60兆個の細胞で構成されているといわれています。一方、皮膚や口の中などを含めた人間の体全体には数百兆個の細菌が常に存在し、重さにすると1kg〜2kgにもなります。つまり、細胞の数よりも細菌の数のほうが圧倒的に多いのです。その細菌の約90%は腸をはじめとした消化管に存在し「腸内フローラ」を形づくっています。多種多様で膨大な細菌はいったいどこから来るのでしょうか?

生まれたばかりの赤ちゃんの腸内は無菌状態で、はじめて排泄される胎便には細菌がなくにおいもありません。出生から数時間で腸内に細菌が定着しはじめます。この細菌がどこから来るのか、じつはまだハッキリとは解明されていません。産道を通るときに母胎から受け継いだものや、母乳を通じて体内に取り込まれるものなどがあると考えられていたり、ある菌種には生まれた病院ごとに特徴があるという報告もあります。さらに母親や周囲の環境が同じでも、腸内フローラを構成する細菌の種類が似ているとは限りません。双子であっても腸内フローラはそれぞれ特有の細菌の構成を持っているのです。

腸内フローラには“個性”がある

成人になると、腸内フローラの細菌叢の構成は安定し、個々人での個体差がはっきりとしています。食べるものを完全にコントロールした研究でも、食事の変化によって各個人の腸内フローラの細菌叢構成は変化したものの、他の人の腸内フローラに似ることはないという結果が報告されています。まったく同じ構成の人は2人といない、まるで指紋や光彩のようなものなのです。

そして近年の研究で明らかになってきたのが、腸内フローラの構成バランスが健康状態に与える影響です。食生活の乱れや抗生物質の多用などによって腸内の細菌のバランスが崩れると、炎症性の腸の病気やアレルギーなどにつながることが指摘されているのです。これを利用した治療法も研究されています。それが「便微生物移植」で、腸炎などの治療のために健康な人の便の細菌を取り出して患者の腸へ移植し、病気の要因となっている腸内フローラのバランスを改善するというものです。

さらに、腸内フローラが肥満にも影響しているという研究結果もあり、各国で研究が進められています。近い将来、体のさまざまな不調を「便微生物移植」で改善することができるようになるかもしれません。

【参考文献】
「腸内フローラ』(『日本大百科全書』小学館、『イミダス』集英社)
「便微生物移植」(『日本大百科全書』小学館)
平山和宏「腸内細菌叢の基礎」(『モダンメディア 60巻 第10号』 栄研化学株式会社 2014年10月)

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