発酵の素=酵素。では酵素の素は何?〜「酵素」とは?

2018.12.25

「発酵」を起こす物質、それが「酵素」

「酵」の「素」という名前が示すとおり、発酵には欠かせないもの、それが酵素です。それもそのはず、発酵は微生物や細菌が有機化合物を分解する現象ですが、より詳しくいうと「微生物が持っている酵素による化学反応」なのです。まさに「発酵の“素”」と言っても過言ではありません。

しかし、酵素自身が他の物質と化学反応を起こして分解し、他の物質に形を変える……というわけではありません。酵素は化学反応を促進したり遅らせたりする触媒としての役割を持っているだけで自身は変化しません。しかし酵素はとても不安定なもので温度やpH値などの環境が変わると、すぐ変質して触媒としての能力を失い、元に戻らなくなってしまうのです。その理由は酵素の素となる成分の性質に由来します。

酵素の元の成分は何なのか?

酵素分子

発酵の「素」となる酵素の「素」とはいったい何なのでしょう? 「酸素」「炭素」「水素」のような元素の一つと思われるかもしれませんが、その正体は「たんぱく質」という高分子(分子量が非常に大きな分子)です。酵素が熱に弱いのも、たんぱく質だからです。ゆでた卵が固くなるのと同じで、高温になるとたんぱく質は熱変性を起こし固くなり、もう元に戻ることはありません。

生物の体内では、たんぱく質を合成しますが、それとまったく同じように酵素も合成され、必要なときに必要な酵素が合成されるようになっています。この酵素によって体内では絶え間なくさまざまな化学反応が行われ、生命を維持しているのです。酵素の特徴はそれだけではありません。酵素を触媒とした化学反応は効率が高く、なおかつ人間の体内の温度やpH値でもっともよく反応するようになっています。

例えば、胃の中では毎日のように食べ物が消化されています。胃液で溶かすイメージがあるかもしれませんが、胃液の中には塩酸のほか数種類の酵素が含まれています。もし仮に、酵素を用いず酸だけですべてを消化しようとしたら、どのようなことが起こるでしょうか。生物の体温では化学反応が進みにくいため、胃の中で行われているたんぱく質の加水分解を酵素を使わず行おうとすると、胃液内の塩酸の100倍の濃度で一昼夜の間100度に熱し続けなければ分解できないといわれています。そんな温度では消化が進むどころか、そもそも生物自身の体が持ちません。それほど、酵素による触媒反応は効率が高いのです。

洗剤に入っている酵素とは何が違う?

さらに、酵素が触媒できる化学反応は厳密に決まっています。たんぱく質の加水分解をする酵素の作用が強くなっても、デンプンや炭水化物の加水分解に作用することはありません。この「特異性(特定の種類の基質や反応にのみ触媒作用を示す性質)」も酵素の大きな特徴です。「この酵素さえあればすべて解決!」ということはないのです。洗濯用洗剤にもこの酵素の力が活用されています。

たんぱく質分解酵素の「プロテアーゼ」は、垢や血液の汚れなどたんぱく質汚れを分解して汚れを落とします。脂質分解酵素の「リパーゼ」は皮脂や食べこぼしなどに含まれる脂質を分解します。デンプン分解酵素の「アミラーゼ」はお米などに含まれているデンプンを分解します。

この洗剤に入っている酵素も、生物の体内にある消化酵素と同様にたんぱく質からなり、特定の汚れを落とす役割を担っています。ということは、もっとも洗浄効果を高くする方法は……? そうです、洗濯時の水温を体温と同じくらいにすると触媒作用が高まります。そしてそれは、発酵食品を作るときに、温度管理を徹底するのと同じ理由なのです。

 

【参考文献】

「酵素」(『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館)
「シリーズ お洗濯の科学③ 主要な添加剤と配合の工夫」(日本石鹸洗剤工業会)

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