腸の病気の救世主? 最新治療法「便移植」について医師に聞いた!

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腸内環境が整っていることは、おなかの健康や日々のお通じにも影響します。腸内フローラのバランスが崩れていたら、いっそのこと健康な腸内フローラをコピーしたくなりませんか?

そんな夢のような治療法が今世界で注目されています。それは健康な腸内細菌を持っている人のうんちを病気の人の腸に移植する「便移植」という方法です。驚きの治療法ですが、現在その便移植の研究が世界各国で進められています。

今回は、日本における便移植の第一人者である順天堂大学医学部附属順天堂医院・消化器内科の石川大先生にお話をうかがいました。

順天堂大学医学部附属順天堂医院・消化器内科の石川大先生。2014年から便移植の研究をおこなっている
順天堂大学医学部附属順天堂医院・消化器内科の石川大先生。2014年から便移植の研究をおこなっている

「便移植」ってどんな治療法?

人間の腸管には約1000種、数百兆個以上の腸内細菌が生息しています。その腸内フローラが炎症性腸疾患や過敏性腸症候群といった消化器系疾患に関与していることが研究により明らかになっています。

便移植はその名の通り、健康な便を腸の病気に罹患している患者さんの腸に移植する治療法です。もともとオランダで研究が進められていた治療法で、現在ではカナダやオーストリア、フランス、中国などでも研究が盛んにおこなわれています。

まだ便移植の方法は確立されていないため、医師によってやり方は異なります。たとえば、オーストラリアの医師がおこなっている便移植は、3~7人のドナー便を混ぜて、腸内細菌の多様性を高める方法。合計41回も便移植をおこなうそうです。

一方、石川先生の方法では、複数回の便移植は必要ありません。副作用の少ない細菌学的治療法としても注目が集まっています。

「乱れた状態の腸内環境に健康な腸内細菌を移植しても、定着しづらいと考えました。まずは患者さんの腸内に3種類の抗生物質を2週間投与し、腸内環境をリセットします。キレイになった腸内へ大腸内視鏡を入れ、健康なドナーから採取した便を注入。この方法により、移植する腸内細菌の効率的な定着が望めます」

便移植といっても、便をそのまま使用するわけではありません。生理食塩水に溶かした便をフィルターで漉(こ)した便溶液を移植します。そうすることで、患者さんの腸内フローラが健康なドナーの腸内フローラとほぼ同じ状態になるのです。

便移植に効果がある病気は?

便移植は腸内フローラの乱れによる疾患に効果があることがわかっています。具体的には、前述のクロストリジウム・ディフィシル感染性腸炎、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性疾患、そして過敏性腸症候群といった消化器疾患です。

ほかにも、肥満や糖尿病などの自己免疫疾患に加え、自閉症やうつ病といったさまざまな疾患にも効果があることが研究により明らかになっています。

「腸からいろいろな伝達物質が体中に発信されていることが近年の研究でわかってきました。腸内フローラが整っていれば、腸の病気だけでなくさまざまな疾患が回復する可能性があると思います」

便移植をすると腸内はどう変化する?

健康な人の腸内では、多種多様な菌がバランスをとりながら生息しています。一方、潰瘍性大腸炎の患者さんには、腸内細菌の数が少ないという特徴があるそうです。では便移植をおこなうと、腸内はどう変化するのでしょうか?

実際に石川先生の下で便移植をした潰瘍性大腸炎の患者さんには、腸内細菌の移植・定着に一定の効果が得られ、約8割の症状が改善したそうです。結果にはばらつきもあるそうですが、3年以上効果が認められた方もいます。

「便移植はもちろんのこと、抗生物質により腸内がリセットされたことで腸内環境が整った可能性も考えられます。まだまだ研究期間が短いので、今後も長期間の観察が必要だと思っています」

なお、便移植後の日常生活については、とくに気をつけることはなく、いつもの生活を送ればよいそうです。健康な便を移植するだけで、生活が一変するなんて夢のような治療法ですね。

治療を受けるには、ドナーになるにはどうしたらいい?

さまざまな病気に有効な便移植ですが、現在は潰瘍性大腸炎とクローン病という指定難病に罹患している患者さんのみ受けることができます。もしこのどちらかに罹患しているようであれば、主治医の先生に相談してみるとよいでしょう。

一方で、ドナーになるにはどうしたらいいのでしょうか? 以前は配偶者または2親等以内の家族のみドナーになれましたが、2015年からは家族に限定せず、健康で異常がなく20歳以上であれば誰でもドナーとして参加できます。そのうち、便移植に採用されるのは、540種の腸内細菌を細かくチェックし合格した便のみ。合格率は約7割とのことです!

「今後研究が進んでいけば、患者さんの腸内フローラの状態よってどんなドナー便がぴったりなのかわかってくると思います。そうすれば、より適した治療ができるようになるかもしれません」

新しい治療法として注目されている便移植。その効果は、私たちのQOLをより豊かにしてくれる可能性を秘めているのです。

【取材協力】

3_石川先生

石川 大先生
順天堂大学医学部附属順天堂医院・消化器内科医師で順天堂大学医学部准教授。2001年岩手医科大学卒業。2009年からアメリカ合衆国ケースウエスタンリザーブ大学のIBD(炎症性腸疾患)リサーチセンターに留学。順天堂東京江東高齢者医療センター、同大医学部付属順天堂医院助教を経て、2016年から現職。炎症性腸疾患・腸内細菌専門とし、難病治療に効果的な「便移植療法(FMT)」の研究もおこなっている。

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