発酵男子を巡る旅 第2回:根岸達朗さん(前編)

%e7%99%ba%e9%85%b5%e3%82%81%e3%82%93%ef%bc%91

根岸達朗さん(ライター・編集者/発酵おじさん)
Profile:1981年東京生まれ。バンド活動とバイトに明け暮れる日々を送った後、編集プロダクションに就職。Web会社への転職を経て、2013年フリーに。『ジモコロ』や『Kekoon』などでインタビュー記事を執筆。一児の父

発酵食品に魅せられた男性を紹介する『発酵男子を巡る旅』。第2回目に登場するのは、フリーライターの根岸達朗さんです。自ら「発酵おじさん」と名乗り、味噌やぬか漬けなどの発酵食品を作っているそうです。充実した発酵ライフを送る根岸さんに、発酵食品に目覚めたきっかけを聞きました。

仕事に家事に育児…不機嫌な日々が続いていた

会社勤めで多忙なパートナーと連携しながら、4歳の息子さんの子育てや家事をこなしている根岸さん。本格的に発酵食品にはまりはじめたのは、2016年の夏前だそうです。発酵に出会う前は、ストレスを抱える日々を過ごしていたといいます。

「そもそもぼくは、自分の人生にずっと納得できず、不機嫌な生き方をしてきました。2013年にフリーになったのも、会社勤めや家族関係にストレスを感じて、神経症を患ってしまったから。仕事には意味を見出せないし、初めての子育ても困難の連続。気持ちの余裕がないから、妻ともケンカばかり…。機嫌よくいられないことが重なって、それに体が拒否反応を示しちゃったんでしょうね」

根岸さんが休養している間、当時、派遣社員だったパートナーが家計を支えていたそうです。その後、体調を整えた根岸さんは、ライターとしての経験を生かして、少しずつ仕事を始めるように。

「ちょうどその頃、妻が新しい業界でキャリアを積んでいきたいということで、転職をしたんです。妻の挑戦を僕も応援したいと思ったし、僕はそんなにキャリアを積み上げていきたいタイプでもなかった(笑)。だから、家にいる時間が多い僕が、できるだけ息子の世話や家事を引き受けることになりました。

僕の一日は家族の朝ごはんづくりから始まります。それから妻と子どもを送り出して、仕事開始。合間に掃除や洗濯を済ませて、夕方になると仕事を切り上げて保育園のお迎えに行きます。晩ごはんを作って子どもに食べさせたら、一緒に遊んで、それからお風呂。寝る前に布団の中で絵本を数冊読んだら自分も力尽きてしまい、気づいたら翌朝ですね」

帰宅後のスケジュールも子どもの機嫌によってはスムーズにいかないもの。せっかく作ったごはんを息子さんが食べてくれない、癇癪で手がつけられない、早く寝かせたいのにお風呂に入ってくれない…など、育児の難しさを実感する日々が長く続いたそうです。

「自ら引き受けたかたちとはいえ、家のことを全面的にやりながら仕事もしていくというのは、結構大変だなあと思いました。もちろん妻にも支えられて子育てを頑張ってきたけれど、基本的に夜の外出はできないし、いろいろと我慢しなくちゃいけないことも多くて…。子どもにとにかく手がかかっていた頃は、毎晩の残業で帰りが遅くなる妻に、苛立ってしまうこともありましたね」

そのころ担当していた仕事のひとつが、地方への移住者を取材するメディア。地方で地に足をつけて暮らす人たちとの出会いを通じて、自分の仕事のありかたや暮らし方について考えることも増えたそうです。

「自分はただ日常に追われ、それに不満を抱いているばかりで、何も生き方らしいものを見つけられていないと感じたんですよね。別に専業主夫みたいな生き方をしたいわけではない。でも、今とは違う自分の姿も思い浮かべられない…。」

行き場のない不安やモヤモヤを抱えながら、ライターという仕事に対しても自問自答する日々が続いたそうです。

「一つひとつの仕事には丁寧に向き合ってきたつもりだけど、生活費を稼ぐための仕事もたくさんしてきたように思います。自分の書いた記事が、ウェブのスピード感のなかで消費されていく虚しさも感じていましたね。自分はライターとしてこのままでいいのかな、一生こんなこと続けていくのかな、なんて思うこともありました」

パーマカルチャーとの出会い

一時期はライターをやめることも考えていたという根岸さん。しかし、以前から交流のあった編集者の徳谷柿次郎さんに声をかけられ、2015年から「地元と仕事」がテーマのローカルメディア『ジモコロ』にライターとして参加。独自の視点でローカルを切り取る柿次郎さんと一緒に地方をめぐりながら、少しずつ、自分らしい仕事のあり方にも気付いていったといいます。

そんななか、とある取材で出会った「パーマカルチャー」の実践者の暮らしが、根岸さんの心に変化をもたらしました。

「パーマカルチャーは、自然の循環、いのちの循環を暮らしのなかに取り込んでいく考え方です。飼っている家畜の糞尿や自分の排泄物を堆肥にし、家族が食べるための野菜やハーブを育てる。生活排水をミミズの力で浄化して、多様な動植物が生息するビオトープをつくる。パーマカルチャーの実践者が楽しそうに暮らしを語る姿を見て、自然とつながりながら、その時間の流れに逆らわずに生きていくことが豊かさだと思ったんです」

「これまでのモヤモヤとした気持ちに、説明がついた」という根岸さん。東京に帰って、すぐに生ゴミを堆肥化させるコンポストを購入しました。
発酵男子を巡る旅 第2回:根岸達朗さん(前編)
根岸家のコンポスト。中心にある棒が軸になり、ぐるっと回転できるそう。野菜のクズや土、枯葉などを入れて堆肥にするそう。発酵していれば、いやな臭いもしないのだとか

「コンポストのなかには、目には見えないけれどたくさんの微生物という『いのち』が躍動していて、それが野菜クズなどの有機物を分解して堆肥をつくってくれます。僕はずっと都市型の消費スタイルに浸かった暮らしをしてきたから、自然の循環なんて考えたこともなかったわけです。これまでたくさん悩んできたけど、自分にもっとも抜け落ちていたのは、僕もそうした生態系の一部として生きているという『前提』だったんじゃないかなと」

コンポストを通じて、微生物の存在を意識するようになった根岸さんはその後、小さい頃に好きだったおばあちゃんのぬか漬けを思い出し、自分でも作り始めました。乳酸菌がたっぷり含まれたぬか床に手を入れてかき混ぜながら、「自然との接続に喜びを感じるようになった」といいます。
発酵男子を巡る旅 第2回:根岸達朗さん(前編)
愛用のぬか床とパチリ。※画像は根岸さん提供

次第に、味噌や納豆など、さまざまな発酵食品も仕込むようになった根岸さん。自分の作った発酵食品に対する愛着とともに、微生物愛も芽生えてしまったとか。

「発酵食品のなかには微生物がたくさんいて、その『いのち』を食べて、自分は『いのち』 をつないでいる。『いのち』は目には見えない世界にも存在していて、それによって自分は生かされている。そう考えたら、やっぱり愛を感じずにはいられなかった。昔、ドラクエのコマンドで『いのちだいじに』ってあったと思うけど、それってめちゃくちゃ大事なことだなと。自然の一部である人間の前提、それに気付いて、やっと自分の人生が始まった気がしました」

コンポストを入り口に、微生物や発酵食品に魅せられていった根岸さん。後編では、菌や微生物との暮らしで変わったことや、発酵ライフについて紹介します。
(取材・文 畑菜穂子)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
%e7%99%ba%e9%85%b5%e3%82%81%e3%82%93%ef%bc%91

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

おすすめ記事

今すぐ読みたいPR