発酵男子を巡る旅 第1回:小倉ヒラクさん(前編)

発酵男子

小倉ヒラクさん(アートディレクター/発酵デザイナー)
Profile:1983年東京生まれ。バックパーカーやシェアハウス経営を経て2008年有限会社あきゅらいずに入社。2010年に独立後、会社経営を経て2014年に本格的に微生物研究の道に。同年「てまえみそのうた」でグッドデザイン賞2014を受賞。4/28に『発酵文化人類学』(木楽舎)を出版予定。

発酵男子の元を訪れて、発酵食品の魅力や菌との生活について聞く『発酵男子を巡る旅』がスタート。第1回目に紹介するのは、アートディレクターとして企業の商品開発や地方の街づくりに携わる一方で、発酵デザイナーとして
『菌の見える化』を実践している小倉ヒラクさんです。山梨県甲州市の山の上にある小倉家におじゃましまして、発酵食品との出会いや魅了について聞きました。

免疫力弱め男子が発酵食品に出会った!

ヒラクさんが発酵食品を意識的に取り入れるようになったのは、25歳くらいの頃だといいます。企業に勤めるデザイナーとして毎日限界まで働いて遊んで…という日々を送っていたそうです。

「当時は仕事と同じくらい遊ぶことも楽しくて、朝まで遊ぶような生活を送っていたんです。そうしたら、体調を崩してしまった。夜になると咳が止まらなくて寝られない日々が続きました。僕は未熟児だったこともあって、生まれつき免疫力が弱い。喘息・アトピー・アレルギー体質です。今でも、ある一定のラインまで疲れが溜まると、肘の裏のあたりにアトピーが出てしまいます。漢方も試してはみたものの、悪くなりすぎた体には効果がありませんでした」

同じ頃に、ヒラクさんは京都の古本市で発酵学者の小泉武夫先生の本を発見。読んでいるうちに発酵のおもしろさに惹きつけられていったといいます。偶然にも、同僚に山梨県にある味噌屋の娘さん(五味醤油の五味洋子さん)がいたのだとか。

「僕が読んでいる本を見た同僚が『それ、私の先生! 一緒に先生のところに会いにいこう』と小泉先生を紹介してくれました。小泉先生は僕の顔を見るなり、「生まれつきの免疫不全だな」とズバリ言い当てていました(笑)。小泉先生にすすめられるまま、納豆や漬物、味噌汁を食べ続けていたら、少しずつ体調がよくなっていったんです。現在も、体を健康な状態に保つために発酵食品を取り入れています」

発酵男子を巡る旅 第1回:小倉ヒラクさん(前編)
ヒラクさんの本棚。デザイン関連の書籍に混ざって、麹や菌にまつわる本が並ぶ

2014年に会社を退職し、独立したヒラクさん。フリーになって最初の仕事が、同僚の実家の味噌屋のデザインでした。

「当時は東京で生活していたので、山梨に仕事があるときは味噌屋に泊まりこんで、たまに店番をすることもあった(笑)。そのときに、麹を買いに来るお客さんが多いことに気づきました。僕は都会暮らしだったから、当時は麹が何なのかも知らなかった。調べてみると、甘酒や味噌の原料ということがわかったんです。もっと麹について掘り下げたくなり、味噌と甘酒作りをはじめました」

「見えない菌を見える化」する 発酵デザイナーとは?

発酵食品からスタートし、菌にのめり込んでいくも、友人たちには内緒にしていた。

「2008年ごろは、まだ今ほどは発酵食品が注目されていませんでした。デザイナーなのにおばあちゃんみたいなことをやっていると思われるのが恥ずかしくて、発酵食品や菌の研究をしていることを人に話せなかった。(削除)仕事で地方に行くときに味噌屋や醤油屋を見学させてもらいながら、家でこっそり趣味にいそしんでいました(笑)」

2009年ごろから山梨県甲府市にある五味醤油味噌屋と一緒に味噌作りワークショップをスタートさせました。2011年の東日本大震災以降、発酵食品に関心を持つ人が増えていき、ワークショップにも若い人が来るようになったそう。さらに、醸造メーカーが新しい顧客にアピールしたいとデザインの仕事を依頼するようになり、発酵のオフィシャルな仕事が増えていきました。

「最近では、アートディレクターの仕事と発酵デザイナーの仕事の境界がなくなってきていますね。町おこしやイベントの一環として、自治体から『うちの発酵食品を食べて、コメントをください』とお誘いを受けるケースもあります。

発酵っていろんな捉え方があると思うんです。健康や美容のための食として取り入れる人や、カルチャーとして取り入れる人。僕はどちらかというと、サイエンス寄りの活動をしています。発酵に興味がある人にバイオテクノロジーの入り口を紹介する人です。微生物の力を使って何ができるかということや、みんなが実践するための方法、リスクを回避するポイントなどを教えている。つまり、『菌の見える化』を実践しています」

発酵男子を巡る旅 第1回:小倉ヒラクさん(前編)
麹作りワークショップではDNA模型を使って説明することもあるそう

菌にはロマンがある!

発酵食品にとどまらず、菌や微生物そのものに魅せられたヒラクさん。自宅には、顕微鏡や高温・低温で菌の培養を管理するインキュベーターまで揃っています。

「菌は目には見えないから、ロマンをかきたてられますね。研究しているうちに、菌が見えるようになる。たとえば、僕は仕事で地方に行く機会が多いのですが、環境に合わせて菌も変わるんです。『水辺だから、こういうカビがいる』『この場所の気候なら、乳酸菌がいっぱい飛んでいるな』というように、今まで見えなかったものが徐々にわかってくる過程がおもしろいですね」

発酵食品はもちろん、菌そのものに夢中になっている小倉ヒラクさん。着ているオーバーオールも発酵による藍染めと徹底しています。後編では、小倉ヒラクさんが仕込んだ発酵食品や味噌作りについて紹介します。

(取材・文 畑菜穂子)

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