小倉ヒラク×ドミニク・チェン、発酵好きの二人による出版トークイベントレポート<後編>

2017.08.21

2017年7月に東京で開催された、発酵デザイナー・小倉ヒラクさんと情報学研究者・ドミニク・チェンさんの出版トークイベント。前編のレポートでは、ドミニクさんと松岡正剛さんとの共著『謎床:思考が発酵する編集術』(晶文社)の内容を中心に繰り広げられたトークの様子をお伝えしました。

後半ではヒラクさんの著書『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)の内容から発展したトークの内容をご紹介します。

人間の文明が発達したのには“発酵”が関係していた!

ドミニク:今度はヒラクさんの『発酵文化人類学』について教えてください。

ヒラク:僕はこの本で「発酵文化からどうして人間が文明を作ったのか?」とか、「微生物の力を借りてどのような暮らしを作ろうとしたのか?」ということをミクロの視点から捉えながら経済や文化、アートについて分析しました。だから「発酵を学ぼう!」と思って読むと“謎”だけが大きくなると思います(笑)。

ちょっと内容を説明すると、人間は微生物の力を発見したときにシンギュラリティ(=人類の進化速度が無限大に到達したように見える瞬間に到達すること)が起きたと思っているんです。例えば、お酒を飲むのは人間だけですよね。発酵現象は自然の中で多く起こっていますが、人間だけがそれに気がついて再現できた。つまり、自然の中のカオスから秩序を見つけメソッド化し、自分たちの生存の危機を大幅に減らすことに成功したんです。

日本文化の視点から考えてみると、日本の創世記である『古事記』は神様のお話ですが、天から降りてくる神様と葦とかカビから生まれてくる神様がいます。その2種類の神様が複雑に混ざり合っていくのですが、日本の土着的神様ってすごくカビみたいなんですよ!

ドミニク:それってめちゃくちゃおもしろい文化ですよね。

ヒラク:そろそろ具体的に“発酵”の話をしますね(笑)。日本酒のルーツは江戸時代にさかのぼります。もともと飲まれていたお酒は甘酒のようなもので、江戸後期に今僕たちが飲んでいる日本酒が作られるようになりました。ところが、戦争で一度日本酒造りは衰退します。

その後、ビールやウィスキーなどの西洋酒文化が入ってきたことで、改めてきちんと日本酒を造ろうと酒造が立ち上がってできたのが「端麗辛口 吟醸酒」と呼ばれるお酒です。

ドミニク:なるほど、そうなんですね。

ヒラク:日本酒の元になっている麹菌は我々が思っている以上に複雑に、そして高度に進化している生き物なんです。「端麗辛口 吟醸酒」は、日本酒に適した酵母だけをピックアップすることで雑味のない味わいにしていますが、だからこそ飲み方が固定されていました。

ところが、今のトレンドは複雑な味わいでさまざまな楽しみ方ができるお酒。温めても冷やしてもいいし、飲み手のリテラシーが上がってきているから、すごく選択肢が広がったんです。

僕は“文化として優れている”=“自由がある”ということだと思っているんです。「まずい!」と思われていたものでも、発信者の熱意とプレゼンテーション能力が高ければ、「これはおいしい!」と納得させることができる。それが価値観の転換であり、文化としてすごくおもしろいと思います。

小倉ヒラク×ドミニク・チェン、発酵好きの二人による出版トークイベントレポート
参加者のみなさんは真剣におふたりのお話を聞いていました

ヒラクさんとドミニクさんのトークはますます“発酵”していき、話はつきません! 紹介した以外にも「一神教と多神教の違い」や「粋と乙の関係」など、一見“発酵”とは関係なさそうな話もヒラクさんとドミニクさんの思考により“発酵”に結びつき、新しい発見がありました。

そして、“発酵”を発見したからこそ人間は生き延びる知恵を身に付け、文化を発展させてきた歴史があるとは驚きでした。

聞いて楽しい、食べておいしい、幸せな2時間半

2時間に及ぶトークの後は、参加者からの質疑応答タイムです。会場からはユニークな質問が飛び出しました。

Q:子どもが先日、風邪で何でも吐いてしまい病院から「乳酸菌」が処方されたのですが、それも拒否されてしまいました。体調を崩したときは何が一番体に適しているのでしょうか?

ヒラク:一番いいのは“甘酒”です。“甘酒”は点滴に似ているといわれていますが、それは甘酒の麹菌がお米の栄養素を極限まで小さく分解してくれるから。だから人間がわざわざ消化酵素を出す必要もなく、飲んだ瞬間から体に栄養が吸収されていくんです。夏の季語にもなっているくらいなので、夏バテの体にはおすすめです。

Q:ドミニクさんは『謎床』の中で“夢”について松岡さんとお話されていますが、発酵と夢について何かお話いただけますか?

ドミニク:サブタイトルは『思考が発酵する編集術』なんですけど、意識で処理できる情報や知識は行き着けるところには限界があると思っていて、そうではなく無意識に情報を醸成させるプロセスがあるんじゃないか? と思っています。

“夢”は無意識で情報を生成するモードなので、僕は20年ほど夢日記をつけ、夢の中での感覚をウォッチしています。そうすることで自分でも気がつけない考え方を垣間見られると思います。これは、主観的であり科学的に証明されてはいないですけどね(笑)。

イベント終了後は、主役のおふたりを囲んで懇親会が行なわれました。ケータリングは発酵を研究する「渋谷菌友会」のメンバーで料理家の森本桃代さんによるもの。発酵食品を使ったフードが並びました。森本さん曰く「えげつない発酵食品(笑)を使った料理」とのことですが、どれも味わい深くおいしいものばかりです。

小倉ヒラク×ドミニク・チェン、発酵好きの二人による出版トークイベントレポート
冒頭で紹介したオブジェ、実は鎌倉にあるベーカリー「パラダイスアレイ」さんによる“謎パン”でした。このパンには“マッシュルーム乳酸菌発酵バター”を添えて…。

小倉ヒラク×ドミニク・チェン、発酵好きの二人による出版トークイベントレポート
ザワークラウト、チキンの麹味噌漬けなど。乳酸発酵や酵母発酵、さまざまな発酵フードが楽しめました

小倉ヒラク×ドミニク・チェン、発酵好きの二人による出版トークイベントレポート
右奥は奄美大島の発酵飲料「ミキ」はヨーグルトのような風味。五味醤油さんの麹菌を使った甘酒もありました

小倉ヒラク×ドミニク・チェン、発酵好きの二人による出版トークイベントレポート
会場はこの賑わい! 料理を楽しむ人、ヒラクさん&ドミニクさんと歓談する人、思い思いにこの時間を楽しんでいました。

“発酵”をもっと勉強したい方、ヒラクさんの知性に触れてみたい方、今後も全国各地でイベントが開催されるので、訪れてみることをオススメします。

(取材・文/小野喜子)

小倉ヒラク×ドミニク・チェン、発酵好きの二人による出版トークイベントレポート<前編>

【参考】
小倉ヒラク公式HP
http://hirakuogura.com/

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