古くは単なる「食べかす」と見なされ、栄養的な価値がないものと見なされていましたが、研究が進みその重要性が再認識されている「食物繊維」。特に、日本人は食物繊維の摂取量が不足しているといわれ、積極的な摂取が呼びかけられています。食物繊維をもしも摂りすぎたら、いったいどのような影響が考えられるのでしょうか? 今回は、食物繊維の基礎知識と摂りすぎの影響などについて解説します!
目次
食物繊維とは

食物繊維の定義は「人の消化酵素で消化されない、食べ物の中の難消化性成分」と定義されます。口から入った食物は食道を通って胃や腸などの消化管へと至り、消化液によって消化されて栄養として体内へ吸収されます。消化されない成分(難消化性成分)は消化・吸収されずに小腸を通過して大腸へと到達し、排泄物として体外へと排出されます。
具体的な成分としては、植物の細胞壁を構成する成分のセルロースやリグニン、果実に含まれるペクチン、海藻に含まれるアルギン酸、とうもろこしのデンプンから生成される難消化性デキストリン、エビやカニの殻の主要成分であるキチンなどがあります。
食物繊維の種類とはたらき

食物繊維は大きく「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」の2種類に分類できます。近年では分析方法の進歩によってより詳細に分類できるようになっています。最新版の「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」では、より細かな分類が採用されていますので、それも合わせて解説します。
水溶性食物繊維
食物繊維のうち、水に溶ける性質を備えたものを「水溶性食物繊維」と呼びます。水溶性食物繊維は、小腸での栄養素の吸収速度をゆるやかにするはたらきのほか、腸内フローラを構成するビフィズス菌などの善玉菌のエサとなり、善玉菌を増やすはたらきがあるとされています。善玉菌によって水溶性食物繊維が分解されるときに酸が生成され、腸内のpHが酸性に傾き、腸内環境が良好になります。
「日本食品標準成分表」では以前(追補2017年まで)は、食物繊維を「ヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総体」と定義して、「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」の総量を「食物繊維総量」としていました。しかし、新しい食物繊維分析法によりこれまでの分析法では測定しきれなかったオリゴ糖や難消化でんぷんなどの食物繊維が定量できるようになったため、最新版の「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」では新しい分析法での測定値である「低分子量水溶性食物繊維(SDFS)」と「高分子量水溶性食物繊維(SDFP)」が一部の食品で収載されるようになりました。
「低分子量水溶性食物繊維」は新しい分析法によって計測できるようになった「難消化性オリゴ糖」を含み、「高分子量水溶性食物繊維」はおおむね従来の分析法で計測できていた「水溶性食物繊維」と同じです。
不溶性食物繊維
不溶性食物繊維にはセルロース、キチンなどがあります。また、難消化性でん粉も不溶性食物繊維に含まれます。体内で消化されずに腸内まで到達し、水に溶けにくい性質を持つため腸内の消化物の水分を吸収して、便のかさを増す役割を持っています。便が増えると大腸への刺激になり、スムーズな排便につながります。
不溶性食物繊維も、水溶性食物繊維と同様に腸内の善玉菌のエサとなり、腸内環境を酸性へと傾け善玉菌を増やし悪玉菌を抑制するはたらきがあります。
食物繊維を摂り過ぎるとどうなるの?

摂取するといいことずくめのような食物繊維ですが、ほかの栄養成分や食品などと同様に摂りすぎると体への悪影響はあるのでしょうか?
考えられる影響その1:栄養素が吸収されにくくなる
食物繊維を多く含む食品に野菜や果物があります。積極的に食物繊維を摂ろうとして、野菜や果物を食べ過ぎることでおなかを壊してしまうと、消化物が腸内を通過する時間が短くなり、健康な体を作るのに必要なミネラルなどの成分も一緒に排泄してしまうため、食物繊維を摂り過ぎると、ミネラルなどの栄養素が吸収されにくくなるといわれています。
考えられる影響その2:便通異常を悪化させる
一般的な便通異常は、適切な量の食物繊維を摂取することで改善されますが、一方で、便が大腸を通過する時間が長くなっているタイプの便通異常などでは、食物繊維の摂取量を増やすとかえって悪化してしまうケースもあるとされ、注意が必要になります。
ただし、いずれの影響も通常の食事から摂取される食物繊維量では過剰摂取の心配はありません。しかし、サプリメントなどの健康食品で食物繊維不足を補おうとして、飲み過ぎてしまうと上記のような影響が出る可能性があるといわれています。
食物繊維はどのくらい摂るべき?

腸内環境を整えて健康を保つためにも欠かせない食物繊維。日本人はどの世代も摂取量が不足しています。いったいどの程度の量を摂取すべきなのでしょうか。
1日の摂取基準量
「日本人の食事摂取基準」(2020年版)の食物繊維の目標量は18~64歳の男性で1日21g以上、女性で1日18g以上となっています。ところが、平均摂取量は男女ともに1日あたり14g前後に過ぎません。
つまり、1日の目標量に対する不足分は4〜7g。食物繊維を豊富に含む根菜などの野菜類、果物、海藻類、穀物、きのこ類、こんにゃくなどを含んだおかずを1品〜2品追加して、この不足分を補うように心がけましょう。
kintre!の過去記事では、1食で1日の不足分を補えるレシピや水溶性食物繊維を多く含む食品を紹介していますので、参考にしてください。
食物繊維が不足するとどうなる?
食物繊維の摂取量不足が常態化すると、腸内環境が悪化してしまう可能性が高まります。その結果、便通異常をもたらしたり、生活習慣からくる体調の不良の原因となってしまうのです。食物繊維を多く含む食品は低カロリーで腹持ちもよいので、食べすぎの予防にもつながります。
まとめ
摂取することが健康にいいといっても、1つの食品や栄養素を極端に取り続けると、かえって悪影響をもたらすこともあります。食物繊維もその例に漏れません。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の違いを意識しながら、いろいろな食材や料理からバランスよく摂取するように努めましょう。
【参考文献】
「食物繊維の必要性と健康」「食物繊維」「便秘と食習慣」(厚生労働省「e-ヘルスネット」)
「難消化性デキストリンの特性と用途」(農畜産業振興機構「でん粉」)
「炭水化物成分表編」(『日本食品標準成分表 2015 年版(七訂)追補 2018 年』)
『日本食品標準成分表 2020年版(八訂)』
「炭水化物成分表編」(『日本食品標準成分表 2020年版(八訂)』)
「Q3 成分表には「低分子量水溶性食物繊維」と「高分子量水溶性食物繊維」があるけれど、それぞれなにを指すの?」(女子栄養大学出版部WEBサイト)
「食物繊維の働きと1日の摂取量」(公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」)
「栄養に関する基礎知識」(国立循環器病研究センターWEBサイト「患者の皆様へ」)