腸内環境を整える腸活がトレンドになっていますが、腸の状態や腸内環境を確かめる方法を知っている人は少ないのではないでしょうか。乳酸菌やビフィズス菌、食物繊維を含んだ野菜などを食べたり、腸活を取り入れているけれど、本当に腸内環境はよくなっているの…?という疑問に答える、「腸内環境を確かめる3つのチェックポイント」を紹介します。
目次
便の状態は「腸内環境そのもの」
腸内には種類にしておよそ1000種類、個数にして100兆個ほど、重量では1〜2kgほどの腸内細菌が存在しています。腸を通って体外に排泄される便を構成する成分は、水分が約7割、食べ物の残りかすが約1割、腸からはがれた腸粘膜が約1割、腸内細菌の死がいが約1割といわれています。この便の状態は、腸内環境によって左右されるため、便を見ると自分の腸内環境を知ることができるのです。便の状態は、腸内環境がそのまま外に現れたものといえるでしょう。
腸内環境を確かめる、便の3つのチェックポイント

1:硬さや形状
腸内環境が良好なときの理想的な便の水分量は約80%といわれ、バナナ状で適度な硬さがあり形が保たれたままスムーズに排泄されます。便の排泄が滞ると腸内通過にかかる時間が長くなり、便の水分量は減ります。これが便通異常の状態で便の水分量は70%前後になってしまいます。反対におなかを下すと、腸内通過にかかる時間が短くなってしまい水分量は増加します。おなかを下したときの便の水分量は90%以上にもなります。
腸のぜん動運動は腸内フローラのα多様性(個人の腸内での腸内細菌の種類の多様性)と関係を指摘する研究もあり、腸内の善玉菌の活動が活発になれば健康な便に、悪玉菌などの活動が活発になると硬すぎたりやわらかすぎたりする便が排泄されると考えられます。便の硬さや形状は、腸内環境を確かめる重要な要素です。腸内環境が正常な状態に整えられると、ぜん動運動も改善され、便の腸内通過時間も健康な便が出せる状態へと導けるのです。
2:色とニオイ
便の色やニオイも、腸内環境を伝える情報です。肉など高脂肪の食品を食べ続けていると、腸内の悪玉菌の働きが優勢になります。悪玉菌は腸内の消化物を腐敗・発酵させて悪臭のもととなる成分を作り出すため、便のニオイが臭くなる傾向があります。また悪玉菌の影響でぜん動運動も鈍くなってしまい、水分が少ない黒褐色のコロコロとした硬い便になります。
一方、善玉菌が優勢になっていると黄色から黄褐色で、ニオイもきつくない便が排泄されます。腸内の善玉菌を増やすよう働きかけると善玉菌が産生する酸で腸内が弱酸性になり、悪玉菌の働きが抑制されます。するとぜん動運動も活発になり、適度に水分を含んだ便が排泄されるようになります。
3:便の回数
便の排泄回数にも、腸内環境は影響を与えます。腸内細菌のバランスが乱れて悪玉菌の活動が活発化し、ぜん動運動が鈍くなることによる腸内環境の悪化が、長期間排便がなかったり、便の回数が少なくなったり、便が出ても残便感が残る便通異常の状態の要因の一つとされています。
日本内科学会による定義では「3日以上排便がない状態、または毎日排便があっても残便感がある状態」とされていて、3日間排便がないと便通異常という認識が一般的です。

便の硬さや形状を1〜7の段階で示した「ブリストルスケール」では、1〜2が便通異常の硬い便、3〜5が正常な便、6〜7がおなかを下したときの水様便と分類されています。この違いは、腸のぜん動運動が活発か不活発かによって消化物や便の腸内通過時間が変わり、便の水分量が変わるためです。
ブリストルスケールを参考にして「硬さや形状」をチェックするの加えて「色とニオイ」、「便の回数」の変化を記録すると、自分の腸内環境の変化を確かめられ、いち早く腸内環境の悪化の兆しや原因に気付いたり、適切な腸内環境改善方法をとれるようになるでしょう。
腸内環境を改善して理想的な便を目指そう

食事の改善
乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌そのものである「プロバイオティクス」と、キノコ・海藻・野菜類など食物繊維を豊富に含んだ食品やオリゴ糖など善玉菌のエサとなる「プレバイオティクス」を摂取することで、腸内の善玉菌の働きをサポートして腸内を弱酸性へと傾け、悪玉菌の増殖を抑えましょう。
また大学生を対象とした調査では、朝食を摂らない人は朝食を摂る人に比べて便通異常になる割合が高いというデータもあります。朝食を抜かず、規則正しい時間に食べるよう心がけましょう。
水分摂取量の改善
同じ、大学生を対象とした調査によると、男性で1日に水を1.5リットル以上飲む人に快便が多いというデータが示されています。便のほとんどは水分ですので、体が水分不足の状態では便の量が足りず便通異常になりやすいと考えられます。食事のバランスとともに水分をしっかり摂取して便が作れるようにしましょう。
運動の改善
便通異常を改善して腸内環境を整えるには、摂取するものを改善するほか、腸の動きを活発にする運動を取り入れるのがおすすめです。短時間で高い負荷を筋肉に与える運動より、長時間継続する有酸素運動のほうが腸の働きを促すのに効果的だといわれています。日々の生活のなかで、ウオーキングやヨガなど30分〜1時間程度継続して体を動かす時間を作るようにするといいでしょう。
まとめ
腸内環境を外見からうかがい知ることはできませんが、排泄される便の様子や体の調子から推察できます。今回紹介した便を観察する3つのチェックポイントを参考に、自分の腸内環境をその目で確かめてみましょう!
【参考文献】
「腸内細菌と健康」(厚生労働省「e-ヘルスネット」)
内藤裕二『すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢』(羊土社 2021年)
「腸管免疫(gut immunity)」「脳腸相関(brain-gut interaction)」(腸内細菌学会 公式サイト「用語集」)
高野正太「Ⅴ.慢性便秘症に対する食事療法,運動療法,理学療法」(日本大腸肛門病学会『日本大腸肛門病会誌』 72巻10号 2019年)
山田五月ほか「大学生における慢性機能性便秘発現に及ぼす性および生活習慣との関連-横断的研究-」(日本栄養改善学会『栄養学雑誌』67巻4号 2009年)