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腸内環境を食事で整えるメリットと、必要な基礎知識

人間の腸内環境を左右する要因にはさまざまなものがあり、その一つが腸内フローラ(腸内細菌叢)です。生まれたときに母親からや家族から受け継いだ腸内細菌によって腸内フローラが変化したり、幼少期に受けたストレスが腸内フローラに影響を与えることが知られているほか、食生活や食習慣によっても腸内フローラを構成する腸内細菌のバランスが変化することが多くの研究で明らかになっています。

生活習慣の変化によって乱れた腸内環境を改善したい人に役立つ、日々の食事で腸内環境を整えるメリットや、腸内細菌についての基礎知識を解説します。


善玉菌は腸内を弱酸性にし、悪玉菌の増殖を抑える

腸内環境を食事で整えるメリットと、必要な基礎知識

腸内環境の改善に欠かせないのが、腸内フローラを構成する腸内細菌のなかの善玉菌です。ビフィズス菌や乳酸菌がその代表格ですが、その大きな役割の一つは腸内を酸性にすること。善玉菌が発酵により食物繊維を分解して産生する短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)や乳酸が、腸内の環境を弱酸性へと傾けるのです。

腸内細菌のなかで、体に悪い影響を与える悪玉菌の多くはアルカリ性の環境を好みます。腸内環境が酸性になるとアルカリ性の環境を好む悪玉菌の多くは増殖しにくくなります。この善玉菌のはたらきによって悪玉菌の勢力が優勢になるのを防いでいるのです。

腸内環境改善によるメリット

腸内の善玉菌の働きが活性化し、腸内細菌叢のバランスが理想的になると、どのようなことが起こりえるのでしょうか。

便通改善

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通常は1日に1〜2回程度の便通の回数が、3日以上なかったり、毎日便通はあるものの苦痛や残便感がある「便通異常」の状態を引き起こす要因のなかには、「不規則な食事・生活」や「食物繊維・水分・脂質などの摂取不足」といった食生活と直結した要因もあります。

便通異常は便通の回数や量が減るばかりではなく、腸内の消化物の腐敗などが進んで有害物質が生成されてしまい、下部の不快感や膨満感、腹痛などの症状をもたらす恐れがあります。

腸内フローラなどと便通異常との関連を調べた研究では、肛門に近い直腸やS字結腸を便が通過する時間の推移は腸内フローラのα多様性(個人ごとの腸内細菌の多様性)と相関することが明らかになっています。便が腸管を通過する時間が長くなり便が硬くなっている人の腸内フローラでは、多様性の亢進(多様性の度合いが高すぎて、さまざまな細菌が均等に繁殖しバランスが乱れている状態)が進んでいるというのです。

お通じチェックで自分の腸内環境を知ろう

手で触れた感覚や、おなかの外観で腸の状態をチェックするのは一般人には非常に難しいことです。痛みや違和感を感じてもそれは個人差が大きく、やはり判断は難しいでしょう。誰もが自分の腸内環境を知ることができる簡単な方法は「お通じのチェック」と「便の形状のチェック」です。

お通じは回数よりも、腸に便が残っている感じがなく、快適に排泄できているかどうかがチェックポイントになります。3日に1回程度の頻度でもスッキリと排泄できていれば問題ないとされています。もう一つのチェックポイントが便の形状ですが、その基準として役立つのが便の状態を段階的に示したブリストルスケールです。

腸内環境を食事で整えるメリットと、必要な基礎知識

便の形状が1〜7の7段階に分類されていますが、1〜2の硬い便の頻度が高いと便通異常と判断されます。3〜5が正常な便とされ、6〜7がおなかをこわしたときの水様便です。この便の形状の違いは、消化した食物が腸を通過する時間の違いと関係しています。1の形状では腸を通過する時間が100時間以上と非常に長く、7の形状では10時間未満という短い時間で便として排泄されていることが分かります。さらに便の頻度と合わせて腸管運動機能を推し量るのに役立つ指標となっています。そして、ここに腸内細菌との関係もあるのです。

研究によれば、直腸やS字結腸など肛門に近い結腸を便が通過する時間は、便の形状ではなく腸内フローラのα多様性(1人の腸内における腸内細菌の種類の多様性)と相関性があると指摘されています。つまり、腸のぜん動運動が腸内細菌叢やその代謝物によって制御されていると考えられます。

腸内環境を整えれば、腸の働きも正常化して便が腸を通過する時間も適切になり、健康な便が出せる状態へと導けるのです。

腸内環境のために積極的に取り入れたい食材

腸内環境を改善するためには、腸内フローラを構成する腸内細菌のバランスを正常化させることが大切です。腸内の善玉菌の数を増やし、腸内環境を改善する生きた善玉菌、いわゆる「プロバイオティクス」を食事から摂取する方法や、善玉菌のエサとなる成分「プレバイオティクス」を日々の食事に取り入れる方法があります。

プロバイオティクス=善玉菌そのものを摂取できる食材

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ヨーグルト

ヨーグルトには生きた乳酸菌が豊富に含まれています。しかし、よくパッケージを見ると分かるようにどの製品の乳酸菌も同じではありません。製品ごとに種類の異なる乳酸菌が使われています。

さまざまな種類のプロバイオティクスがあるなかで、どれが自分の体に合うかどうかは摂取してみないと分かりません。ヨーグルトを摂取するときにも、なるべく同じ種類の乳酸菌を定期的に摂取して、腸の調子の変化を観察するようにしましょう。摂取を続けて便の形状が正常な状態に近づいてきたら、そのプロバイオティクスが体に合っている証拠といえます。

発酵食品

発酵させて作られる発酵食品も善玉菌が豊富な食品といわれています。チーズなど乳酸菌の発酵によって生まれる食品には乳酸菌が多く含まれています。また、ザワークラウトやキムチといった乳酸菌によって発酵する漬物は、乳酸菌に加えて植物に含まれる食物繊維も一緒に摂取できます。

プレバイオティクス=善玉菌のエサを摂取できる食材

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食物繊維

プレバイオティクスとしてもっとも身近な食材といえば、食物繊維です。体内で消化されずに大腸へと到達し、便の量を増やすことから便通異常の解消に欠かせないものですが、実は前述のように腸内では一部の食物繊維が善玉菌の発酵によって分解されるのです。そのため食物繊維は乳酸菌などの「エサ」とも呼ばれています。

オリゴ糖

オリゴ糖もプレバイオティクスの一つです。オリゴ糖は消化管では消化されにくいため、食事から摂取したあと大腸へとそのまま到達します。大腸に生息するビフィズス菌は、このオリゴ糖を「エサ」として代謝して、乳酸や酢酸を作り出します。それらの酸が腸内を酸性へと傾かせ悪玉菌が増殖しにくい腸内環境を作り出すのです。

有酸素運動の習慣を取り入れよう

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便通異常の改善には、食生活からのアプローチとともに定期的な運動を取り入れることが効果的です。腸の動きを促進するためには、短時間での激しい運動や負荷の高い運動よりも長時間続けられる有酸素運動のほうがよいとされています。また、おなかをねじる動きが腸を刺激するとともに自律神経のバランスを保ち、腸の運動を整えるといわれています。

「腸活」に役立つ、有酸素運動の例としてはウオーキングやジョギング、エアロビクス、サイクリング、水泳などが挙げられます。準備運動や柔軟をする際には、おなかをねじる動きを取り入れるよう心がけるといいでしょう。

継続しやすいマッサージやストレッチから始めよう

便通を整えるポイントは自分にとって適度で継続できる運動を習慣化すること。短時間でもかまいませんので、入浴前後や起床後、就寝前など腸を動かす運動を始めてみましょう。運動を続ける自信のない人は、手でおなかをマッサージしたり、ツボを刺激したり、座って体を伸ばすストレッチ程度のことでもかまいません。腸へのほどよい刺激を毎日少しずつ始め、便通異常を克服していきましょう。

kintre!では腸の押し上げマッサージや自律神経に働きかけるマッサージ、腸の真上にあるツボ「関元」の刺激方法を過去に紹介していますので、合わせてご覧ください。

【参考文献】
安藤朗「腸内細菌叢に影響を及ぼす因子」(『モダンメディア』65巻4号 栄研化学 2019年)
「短鎖脂肪酸」「脳腸相関」(腸内細菌学会WEBサイト 用語集)
「腸内フローラとは」(健康長寿ネット)
「便秘と食事」「食物繊維の必要性と健康」(厚生労働省「e-ヘルスネット」)
河野一世、柴田英之「日本食からみる発酵食品の多様性と日本人の健康―肥満を中心に」(『日本調理科学会誌』 Vol.43 No.2 日本調理科学会 2010年)
高野正太「Ⅴ.慢性便秘症に対する食事療法,運動療法,理学療法」(日本大腸肛門病学会『日本大腸肛門病会誌』 72巻10号 2019年)
内藤裕二『すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢』(羊土社 2021年)

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